蠱惑Ⅱ『矯風』

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「さあ、次行きましょう」  その日は鈴木について回りました。 「大体要領は分かりましたか?」 「はい」 「そうですか、さすがですね。私達の仕事はもっぱら食事の世話と下の世話です。おかしいでしょ、食べさせて処理する。極論を言えば食わさなきゃ出ない。だから院長は言うんです。楽をしたければ要領よくやることだとね」  こんなことがまかり通っていいのでしょうか。鈴木は院長に洗脳されているのだろうと思いました。翌日から私は受持ちの8人の食事と下の世話を一人で回ることになりました。雑巾はきれいなものに取り替えました。 「たくさん食べてください」  足が棒のように細くなった患者に言いました。 「怒られるよ」 「誰にですか?」 「看護師にだよ」 「私が担当ですから怒りませんよ。たくさん食べて遠慮せずに出してください」 「トイレ行きたいよ」  驚きました。便意を催したのです。 「ウンチがしたいんですね」  患者が頷きました。 「行きましょう」  私が車椅子を用意すると患者は立ち上がりました。支えて上げれば歩けるのでした。便器に座らせてドアを閉めました。5分経って「終わりました」と返事があり便器を覗くと大量の排便がありました。この患者は自分の意思でトイレに行けるのに何故オムツに排便をさせるのでしょうか。私には理解出来ませんでした。事を荒げてもいけない、私はこのことを報告せずに処理していました。すると受持ち8人の患者のうち5人が排便の意思があることが分かりました。5人のうちさ3人が介助すれば歩けるのです。残りの二人も車椅子で移動すればトイレで排便することが可能でした。私は出来得る限り患者をトイレに行かせてあげることを心掛けました。
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