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「横山さん、まずい。実にまずい」
院長に呼ばれました。
「何か不手際でもありましたか、まだ不慣れなもので申し訳ありません」
「うん、駄目なんだよ。患者をトイレに連れて行っちゃ、無駄な労働は省かないと身体が持たないよ。それにオムツもどんどん使わないと。甘やかしたらつけ上がるよあいつ等。いいね。トイレ駄目」
院長は私に言い残してスーパーカーで帰りました。私は鈴木に相談しました。
「どうしたらいいだろう、患者さん達は自分でトイレに行ける、又は意思がある。ベッドの上で漏らさなくて済むんだ」
「横山さん、郷に入っては郷に従えですよ。それはあなたに教わりました。私達若手がおかしいと思うことをあなた方は押し付けていました。これと全く同じですよ」
私は言われて愕然としました。ここで行われていることをレベルは違うにしろ、やらせていたのです。
「だけどこれは患者さんの尊厳に関わることだよ。トイレに歩いて行けるのに、漏らせと言われたらどれだけ苦しむか分かるだろう君にも」
「ほら、もうかつての上司に戻っていますよ。そうやって私達を苦しめていたんです。だからあんなことになったんです」
そうかもしれない。だけどこれでいいのか。このまま放っておいていいのだろうか。いや私にはできない。だがここで問題を起こせば即首になるだろう。また浮浪者に戻るのか。ここにいれば当たり前の報酬をいただき、ローンも再開できる。隠れて暮らす必要はない。
「分かりました。明日からトイレには連れて行きません」
「そうですよ横山さん、院長の指示を守っていればいい暮らしが待っていますよ」
鈴木は私の答えに安心したようです。
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