蠱惑Ⅱ『矯風』

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 翌日からこの柴田の手配で動くことになりました。さすが清掃のプロです。私の三倍のスピードで三倍の範囲を三倍も効果を発揮します。 「柴田さんは凄いですね」 「40歳からずっと清掃員ですからね、これくらいは常識ですよ。でも時給は同じですよ。横山さんと同じ700円です。あなたの三倍は欲しいです。それとも私が普通であなたが遅いならあなたの時給を三分の一に下げてもらいましょうか。冗談ですよ」  この手の話を朝から終わりまでずっと聞かされるようになりました。いくら頑張っても彼のようにうまくはいかない。そして私の居場所はなくなりました。  一日も遊んではいられません、次の仕事を探さなくてはならない。スポーツ新聞で解体作業員素人歓迎と言うのがありました。一日8千円。頑張って25日出れば20万円稼げます。家賃と光熱費、それと食費を差し引ても10万円の返済が可能です。私はすぐ電話をしました。面談するから事務所に来るよう言われました。 「経験は?」 「ありません」 「これまで何をしてたの?」  まさか証券会社に30年と言うのもおかしいでしょう。 「清掃の仕事をしていました」  清掃なら解体と関係があるだろうと考えて嘘を吐きました。そして採用されました。 「現場は埼玉の東松山なんだ。現場に宿舎があるからそこに入ってください」  面接をした翌日に車に乗せられ移動しました。 「ここ」  着いたのはプレハブの二階家でした。 「現場はここから車で行くから。世話役を紹介する」  食堂に行くと大勢が朝食を取っていました。
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