蠱惑Ⅱ『矯風』

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「飯は食い放題だから」  そして翌日から現場に出ました。肉体労働がこれほどきついとは思いませんでした。毎日が地獄のようでした。これでは身体が持たないと思いました。 「すいませんが今月で辞めさせてください」  私は世話役の飯田にお願いしました。 「仕方ねえな」 「あのう、今月分のお給料はいついただけるんでしょうか?」 「会社の支払いは月末締めの翌月15日だ。俺が建替えてやるから事務所に来い」  私は喜んでついて行きました。26日も働いています。飯田は電卓を叩いて封筒に金を入れて渡してくれました。受け取ると封筒の薄さに驚きました。単純に計算しても20万円はあります。私は封を開けて札を出しました。100円玉が床に零れ落ちました。 「ほらほら、汗水たらして稼いだ金だ、大事にしろ」  飯田が笑いました。札を数えると一万円札が二枚と千円札が二枚だけでした。 「これは一時金ですか?」  会社から出るまでの内金かと思いました。 「一時金?とぼけたことを言うな、明細をよく見ろ」  宿舎利用代が一か月5万円。食費が一食600円で一日三食1800円×26日。布団レンタル一日500円。何から何まで有料でした。 「こんなことは聞いていません」 「聞かなきゃ駄目じゃん」 「私は騙された」 「おかしなこと言うな。出るとこに出てもいいぞ」  しっかりと契約内容を確認せずに飛び込んだ私が浅はかでした。一日の日当8千円は約束通りに出ていますが、生活に関連する全てが貸し出しとなっていたのです。私はバッグを担いで事務所を出ました。 「おい、こっから駅まで歩いたら夜中になっちゃうぞ。車で送らせるよ。運賃2500円だ」    
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