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「横山係長」
「鈴木さん。ありがとう」
「ご事情は向井さんからお聞きしました。ご苦労成されたようですね」
「ほんとうにありがとう。また仕事に戻れるなんて夢のようです」
「さあ、入ってください。院長先生をご紹介します」
私は鈴木に連れられて院内に入りました。
「ああ、鈴木君の上司だそうですね、あの大手証券会社さんの役員さんですか」
「いえ、私は平社員同様です」
「ここで不足しているのは介護です。ですから介護助手と言う形で働いていただくことになりますが大手証券会社の役員さんに申し訳ないな」
「いえ、何でもやらせていただきます」
「患者の下の世話も毎日ですよ」
「はい、患者さんの立場に立ってやらせていただきます」
「いいからいいから、患者は人にあらず。好きなようにやってください。それじゃ詳しいことは鈴木君から指導をうけてください」
患者は人にあらずとはどういうことでしょうか、私には理解出来ませんでしたが院長のジョークだと思っていました。
「横山さん、ひとつ約束してください」
鈴木が歩きながら言いました。
「何でしょうか、あなたは私の上司ですから遠慮しないで仰ってください」
「ここで見たことは外部に漏らさないでください」
病院だから色々あるでしょう。患者家族を安心させるための嘘も必要なのだろうと思いました。私は笑って口にチャックをする真似をしました。
「ありがとうございます。これから横山さんの担当するフロアを回りましょう」
私は映画で観た精神病院しか思い当りません。だから、それこそ檻に入れられているのかと想像していましたがそうではなく、ほとんどがベッドに横になっていました。
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