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「実はもっと恐い場所かと想像していましたが普通の病院にいる患者さんと変わらないですね。少しほっとしました」
「重度の方はまた別の棟に入院されています。この部屋から回りましょう」
部屋に入ると便臭がしました。6床あり私を意識する患者と全く意に介さない患者が半々でした。私に何かを訴えている患者がいました。
「何か話かけているようですが」
「気にしないでください。患者ペースでやっていると人出がいくらあっても足りません。あくまでも看護師ペースで進めます。先ずはオムツの取り替え方を教えます」
鈴木は患者を乱暴に横向きにしました。
「痛いよ」
「うるさい黙ってろ」
どういうことだか頭が混乱しました。私は瞬きを三度して悪夢じゃないことを確認しました。鈴木が患者に暴言を吐いたのです。私の部下だった頃はおとなしい青年で、『はい』と言う返事がよく似合う子でした。もしかしたらこの患者は乱暴者で事あるごとに看護師に歯向かう癖があるのかとも考えましたが、あの悲しそうな眼を見ているとそんな風には見えませんでした。
「鈴木さん。手伝いましょうか?」
「それじゃ、こいつの足を広げて持ち上げて下さい」
鈴木はこいつと言いました。私は言われた通りに両足を広げて持ち上げました。大便がオムツ一杯になっています。鈴木がオムツを取り替える際に私に患者の尻を拭くよう命じました。
「これでいいんですか?」
「それは駄目、ほらそのバケツに浸けてある雑巾です」
私は黒く濁ったバケツの中に浸かった雑巾を取り出しました。
「洗ってきます」
「いいんですそれで、軽く絞って拭いちゃってください。こんな奴のために時間を無駄にしては時間までに終わりませんよ。だからあなたのような立場の看護助手を募集しているんです」
私は雑巾を絞って患者の尻を拭いました。濯ごうとしたら鈴木に叱られました。私は雑巾を織りながらなるべくきれいな面で拭いて上げました。その時患者と目が合いました。私に訴えています。涙を浮かべて助けを求めてます。
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