たえて桜のなかりせば

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「やっぱり直接伝えるべきかなぁ?」 そんなの僕の知ったことじゃない。むしろさっさと告白して振られればいいんだ。そうすればその大きな目で見落としている存在に嫌でも気付くだろう。 でも、本当はわかっている。一番盲目的なのは僕自身だって。 アイツに夢中な君にストレスを感じながらも、こうして誘われるまま、のこのことついて来てしまうんだから。情けないったらありゃしない。 「よっちゃんは桜、好き?」  唐突に話題を変えるのは昔からだ。その口ぶりがどこか『嫌いなんて言うわけないよね』と断定的な感じがして癪に障る。 「梅のほうが好きだよ。香りも」 「え―っ、なんで? 日本人なら桜でしょう?」 「そんなことない。万葉集では梅を詠んだ歌が120首くらいあるけど、桜は40首程度しかないんだよ。梅のほうが歴史は長いんだから」  これが古今和歌集になると逆転するのだけれど、それはもちろん伏せておく。 「そうなの? じゃあどうして今は桜のほうが人気あるんだろうね?」 率直な疑問に言葉が詰まった。 それはたぶん、桜の咲くさまに己を投影するからだ。寒さに耐えて花を咲かせ、潔く散る。力強くも儚い、生の縮図。すべてのことには始まりと終わりがある。僕が自分の気持ちを伝えたら、君との気の置けないこの関係は終わってしまうのだろうか。
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