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神宮美流子は穏やかな眼差しで水鏡を見つめる。
黒藤も歩み寄り、神宮美流子の隣から覗き込む。
映っているのは、朝間夜々子と、神宮美流子の娘だ。
……黒藤たち陰陽師とは違うが、霊力が高く、世界律のバランサーである神祇の娘だから出来た芸当だろう。
普通の、いわゆる霊感がある、程度では無謀だ。
「……黒藤さんは、私を神宮美流子と呼ぶのですわね」
「え? ああ……今のあなたなら知ってると思いますけど、華取は影小路(うち)の派系ですからね。あなたを『華取桃子』として扱うと、在義を最後の華取に出来なくなる。華取は在義の兄によって終わらされた――うちが管轄する中ではそうなっているんですよ」
華取は絶えた家系。
この先華取在義がどんな人生を送るかはわからないけれど、もし華取在義の血が繋がれたとしても、小路一派の華取は絶えた、ということにしておかないといけない。
長兄によって焼き尽くされた一族、華取。
……華取は一時期、影小路を傀儡とするまで歪(ゆが)んでいた。
主家である影小路の密命を受けた跡取りが、自らの命ともども華取を滅ぼす手段をとらざるを得ないほどに。
長兄は、養子に出されていた末弟――在義だけを残して総てを焼いた。
在義は実家がどんな立場だったかは知っている。黒藤が接触したからだ。
月御門本家は京都にあるが、影小路本家は天龍(てんりょう)という大きな山の中にある。
天龍を取り仕切っているのが、影小路と千歳(ちとせ)という家。
黒藤たち『バランサーの世界』は、司という家を頂点にして、そのすぐ下に神祇三家があり、神祇三家から更にそれぞれが従家を持っている。
異端なのは司の下につく中で、唯一陰陽師という性質をもっている月御門と影小路だ。
この二家だけが『司家直属』という言い方をされて、神祇家からはその特別扱いに白い目で見られている。気にする陰陽師二大大家ではないけど。
陰陽師二家の月御門と影小路、神祇家、総主家である司家は、この国のバランサーという役目を与っている。
陰陽師二家は、陰と陽を。神祇家の役目は多岐に渡る。現世と異世(ことよ)のバランスを保つ一族、山と大地、海のバランスが崩れないように保つ一族、人々と幽体が混じりすぎないように監視する一族……と。
神祇三家と呼ばれるのは、神宮、御影(みかげ)、古桜(こざくら)という一族だ。
しかし今の世、神宮は滅び、古桜は機能を失い、御影は隠れた、と言われている。
末端の神祇家は、自分たちがどの家の派系に属しているか知らないものも多いと聞く。
その最後の神宮と呼ぶべきが、この神宮美流子だ。
生前、かなりの訳ありで生涯を終えた神宮美流子は、亡くなるときはその名ではなかった。
……神宮美流子には戸籍上の弟がいる。
弟は神宮本家の末(すえ)ではないため、あくまで本家の最後の人間である美流子が最後の神宮だ。
神宮美流子の娘は、そのときの神宮美流子は別の人物であったために神宮の一族としてはカウントされない。
「……黒藤さん。そろそろ教えてくださってもいいのではないですか?」
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