卒業後編Ⅱ

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<楓翔side> 父親という邪魔者がいなくなってから、母親はさらに夜遊びに夢中になった。 夜な夜な出かけて行って、朝酔っぱらって帰って来て。 でも文句を言う人なんて誰もいないから、そのまま自分の部屋に戻って好きなだけ寝る。 そして夜になったらまた出かけていく。 そんな母親をクズだと思いながらも、俺も何も言わなかった。 関わったら余計に面倒くさいことになりそうだったから。 クズな母親も、クズな親父のように好きなように生きたらいいって、俺はずっとそう思ってた。 自分の生みの親って関係性は死んでも変えれないけど、でも最初からほぼ他人みたいな関係だったんだ。 今更ちゃんと親子として接して欲しいだなんて思うはずがない。 俺の人生に関わらないんだったら、何をしてくれてもいいって、そう思ってたんだ。 だけど、そんな俺のいわゆるプライバシーってヤツが、だんだん侵害され始めた。 母親が、男を家に連れ込むようになったんだ。 別に誰が家に来たって気にしないけど、家の中で大声でセックスされだしたらさすがの俺も気になるわけよ。 せっかく夜静かになったのに。 誰が母親の喘ぎ声なんて聞きたいんだよって話。 家が広くて、しかも俺が何も言わないことを良い事に、毎日いろんな男をとっかえひっかえ家に連れてきて。 しばらく経った後に、ベッドのきしむ音と母親の嬌声が聞こえだす。 数年間我慢し続けてやっと手に入れたはずの俺にとっての平穏が、崩れ去った瞬間だった。 そんな母親が夜遊びに行くときに必ず履いているのが、赤いピンヒール。 無駄に高見えするそれを履いて、母親は出かけていく。 最初こそ何も気にかけていなかった俺も、だんだんとその赤色が鬱陶しく感じてきて。 靴箱にそれがない時は母親がいないって言う証拠だから安心できるんだけど、家に帰って来て玄関口にその赤色を見つけると、吐き気を覚えるようになった。 ついでに頭痛と倦怠感もプラスという三拍子ぞろい。 前に俺が晩飯も食わずに寝落ちた、みたいなことがあったと思うけど(他にも何回かそんなことはあったんだけど)、その時に言った赤色(・・)って、母親のピンヒールのことな。 それを見るだけでどっと疲れるし、食欲だって失せていく。 あぁ、今日もまた耳をふさいで耐えるしかないんだなって。 憂鬱になる。 当然母親の夜遊びが終わる日なんて来るわけなくて、母親と顔を合わせたくないから部屋から出られなくなって、そのおかげで余計に学校に行けなくなって、俺はずっと教科書とにらめっこする日々しか送ってなかったんだ。 当然、友達なんて出来るはずない。 俺はずっと一人だった。
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