69人が本棚に入れています
本棚に追加
<楓翔side>
「なぁマジで帰んの?」
「当たり前でしょう。新学期準備とかいろいろありますし、同じスーツで出勤なんてできません」
「俺の家から行けばいいじゃん……」
「何度も言ってますがそれもしません」
「真弥さーん!」
飯を食べ終わったあとはシャワーを浴びて、そっからまたゆっくり出来るとか思ってたのに、真弥さんは早々に昨日のシャツを着て帰る準備を始めた。
え、マジ?
そんなあっさり帰んの?
明日も休みなのに?
まさかこんな展開になるとは思ってなくて、俺は必死になって真弥さんのことを止めようとした。
結局惨敗だったんだけどさ……。
ネクタイなら親のが多分あるから勝手に使っていいとか、アイロンだって貸せるとか色々言ってみたけど、どれも真弥さんのことを納得させれる理由にはならなかった。
どうやって止めようか考えてる俺の目の前で、通常真面目な性格の真弥さんはそれは手際よくあっという間に準備を終えてしまって。
「マジかよ……もっと一緒にいたいのに……」
「お気持ちは十分わかりますけど、私にだって仕事がありますから」
「教師激務すぎだろ……」
「そんな私を選んだのは楓翔くんですよ?」
迷いなく玄関まで降りてった真弥さんのことを、俺も後ろからトボトボついて行って渋々見送ることにした。
真弥さんは明日も明後日も普通に仕事で、三月末にちょっとだけ休みがあって、四月の頭からはまた仕事が再開するらしい。
俺だって四月の頭からは大学行かなきゃだけどさ。
せっかく恋人になったのに。
春休みもろくに会えないのに。
もう夜なんだから泊まっていけばいいのに。
そしたらもう一日一緒にいれるのに!
「それでは失礼しますね」
「…………」
「きっと次もすぐですよ。また会えますから」
「でも……」
玄関に来ても渋り続けてる俺のことを見かねたのか、真弥さんが俺のことを抱きしめた。
段差のおかげでちょうど身長差が同じぐらいで、真弥さんの頭が俺のすぐ横にある。
真弥さんの声が耳にダイレクトに入ってくるのがくすぐったかったけど、俺もすぐに抱きしめ返した。
気が変わって、このまま俺の家にいるって、そう言ってくれたりしないかな。
真面目な真弥さんがそんなこと言うとは思ってないけどさ。
何も言われないことをいいことに、俺は真弥さんの肩にひたいをグリグリ押し付けた。
しばらく会えないんだから、これぐらいしたっていいよね。
「また今度ちゃんと、色々話し合いましょうね」
「色々って?」
「そりゃ……私だって好きな人とはいつでも一緒にいたいですから」
「! 真弥さん!!」
最初のコメントを投稿しよう!