卒業後編Ⅰ

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<真弥side> そつがなく卒業式後の仕事を終えて、あっという間に週末になってしまいました。 卒業式の後に神崎くんからもらった紙には、我々が住んでいる市から始まる住所と、神崎くんの携帯電話番号が書かれていました。 それをスマホで検索してみると、学校からはそこまで離れていません。 しかし、私の家からは反対方向に位置していました。 これを考えると、よく街中で出会えたものですね……。 高校生の、というか神崎くんの行動力には脱帽です。 「……悪いことをしてしまいましたかね」 その後、私の頭には"例の瞬間"が思い出されました。 そう、彼と初めて一夜を過ごしたあの日のことです。 あの時は正直私もパニックに陥っていて、あまり冷静に物事を考えることが出来ておらず、 「神崎くんをホテルに連れ込むわけにはいかない」 「神崎くんの家でふしだらなことをするわけにはいかない」 ということしか頭を占めておらず、つい勢いで私の家をと提案しましたが。 こんなにも離れているのでしたら、逆に彼に悪いことをしてしまった気分になりますね。 行為をした翌日も、神崎くんは夜遅くまで私の世話を焼いてくれましたし、それからここまで一人で帰ったのだとすると、教師としてあるまじき行為をしています。 いや、そもそも生徒と関係を持った時点で教師としてあるまじき事なんですけど。 (やはり電車が一番早そうですね) スマートフォンの情報曰く、神崎くんの家までは、電車を使えば乗り換えも必要なく、およそ二十分程度で着けるみたいです。 駅からは少し歩くみたいですが、それは全然問題ありませんしね。 最近は仕事して帰宅して、がルーティーン化してましたし、私にも多少なりとも運動する時間は必要です。 今日のために用意していた折り菓子を手に持ってから、私は家の鍵を閉めました。 そういえば、前回は神崎くんがわざわざお菓子を買ってきてくれましたね。 チョコレート菓子とかポテトチップスとか、チョイスがいかにも高校生らしくて思わず頬が緩みそうになってしまったことは、しばらく彼には言えそうにありません。 決して神崎くんのことを馬鹿にしているわけではなくて、可愛らしいなと、あの時はただ純粋にそう思ったんです。 でももし私が笑みを零したら、神崎くんは私が彼のことをからかっていると、そう勘違いしてしまいそうですから。 「さて、行きましょうか」 卒業式が終わって、数学準備室で久しぶりに神崎くんと会話を交わしたあの日。 神崎くんがあそこまで真剣な顔をして私に頼みごとをするのは、あれが初めてでした。 きっと、彼にも心の中に抱えている何かがあるのでしょう。 それを、頑張って私に伝えようとしてくれている。 根拠なんてないですが、なんとなくそんな気がするのです。 内容が全く予想できないためにこちらも緊張してしまいますが……。 これからは、少しでも神崎くんの支えになれるのならば、私に出来ることなのなら何でもしてあげたいと、そう思います。
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