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ある日の夜、それは俺が会社から帰って来た時に起きた。2階に続くアパートの階段をコツコツと登り、片手にぶら下げる弁当とチューハイが入ったビニール袋。
ただいま。と、いつものように気だるい声を吐き、ドアを開けて言う俺。もちろん、誰も迎えて来る人もいない。未だ独り身の25歳、名前は山田一(やまだはじめ)。
しかし、布団の上に鎮座している(あるもの)に驚きを隠せない。
「………卵だよな?」
俺はジロジロと、注意深く観察する。何故なら卵が置いてあるから。大きさは50センチもある斑点模様の卵だ。
まず、見覚えすらない。買って来た覚えすらないし、貰った覚えはない。何しろ、帰って来たらあったのだ。
(気持ち悪いなぁ………)と、俺は外に出て、その卵を持って外のゴミ捨て場に捨てるのである。誰かが珍しいから持って帰る事を祈り、寝る。
次の日の朝。
「あれ?」
朝から変な第一声を響かせる俺。何故なら卵がテーブルの上に置いてあるからだ。
「どうしてだ?」
頭をポリポリと掻く俺。捨てたのに、どうしてだ?と。誰かが部屋に入って置いた?それはあり得ない。まず、ドアにカギが掛けてあるから入って来れない。
「全く………」
俺はスーツに着替え、そして卵を持って再びゴミ捨て場に捨てる。今日は生ゴミの日だから問題ない。あと、部屋にカギを掛けてある。それから会社に向かうのである。
夜、帰宅。いつものように電気を点ける俺。
「あれ?」
またしてもテーブルに、卵。
次の日、俺は近所のに水路に卵を投げ入れ、流す。これなら戻っては来れないと、軽くため息を吐く。そして会社に向かう。
夜、帰宅する俺は電気を点ける。
「おいっ!!」
嘘だろ?と、俺は驚くしかない。水路に捨てて流したのに、戻って来るなんてあり得ない。俺は額から汗を流しながら卵をジロジロと眺める。何かの呪いか?それとも、俺が卵に選ばれし者なのか?。
それから。俺は部屋の電気を点け、コンビニで買って来たレモンチューハイを飲みながらバラエティ番組のテレビを見る。そんで隣には斑点模様の少し大きな卵が鎮座。まずは飾り物として置いてあげることにした。卵が孵化したら、そのうち独立していなくなるだろう。と、チューハイを片手に飲みながら軽く思っていた。それに、孵化した生き物が地球上では得体の知れない生物なら、俺は様々なメディアに取り上げられて有名人になるであろう。
などと機嫌良く前向きな妄想を膨らませながらカシュっとチューハイの栓を開き、ゴクゴクと喉ごしを響かせる。
(はやく孵化してくれよな………)
俺は斑点模様の卵をまるで子供をあやすように撫でる。しかし、何の卵なんだろうな。と、気にしながら。
深夜、俺はイビキを響かせながら就寝していた。
ゴトゴトと………卵が左右に揺れ始める。そしてピキピキと、小さく音を響かせ、ヌメヌメとした粘液を纏(まと)わせた殻が破ける。全身には糸を引くような粘液、そして深夜の闇に同化するように黒い影はパキパキと、笑っているかのように鋭い無数の牙を晒し、白い湯気を口から吐き出す。呑気に寝ている男性にゆっくりと、音を立てずに忍び寄る。
そして………。
パキパキと肉を切り、豪快に骨を砕く咀嚼の音。部屋はおぞましい光景となり、辺り一面は口では表現出来ない程の地獄に変異していた。
ニュースです、アパートの一室にて会社員の男性の惨殺遺体が発見されたの模様。部屋は荒らされて凶器は不明、侵入経路が分からない為、捜査は非常に難航しているらしい。
「ただいまぁ~~」
一件の住宅。女子高生が帰宅し、部活で疲れた身体を引き釣って階段をトントンと掛け登って部屋に向かう。部屋の明かりを点す女子高生。
「あれ?卵だ」
女子高生はのベッドの上には斑点模様の卵。カバンを置き、ハンガーに制服を吊るしてから卵を珍しい視線で眺める。
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