1人が本棚に入れています
本棚に追加
Appetizer
漫画や小説で『恋』というものを知って、憧れて、周りの恋バナを聞いているうちに、命と似てるな……と、我ながらシビアな印象を受けた。経験した訳でもないのに、漠然と。
どの恋も、いつか必ず『終わり』がくるからだ。両想いになって、結婚しない限り。それでも、付き合いたての頃の熱は次第に冷めて、穏やかな甘い情が残れば幸いなものでしかない。
そして、『初恋は実らない』という事。奇跡的に実ったら、それは特別で幸運なケースだという事。
だけど、私の初めての恋は、報われない片想いで、始まった時には……既に終わってた。
想うのは、自由。諦めなければ、終わらない。ひっそり守って、育てるのも自由。
そんなふうに強がってたけど、本当の『終わり』は、別にあったなんて……知らなかった。
街灯の心細い明かりしかない、真夜中の帰り道。台風は来るのか来ないのか、梅雨明けはしたのかしないのか。そんな曖昧な日々が続く空気は、どこか気だるくて落ち着かない。
そんな中、慣れない酔いと軽い頭痛に身をまかせ、事もあろうか、彼女持ちの男の子と二人きりで歩いてる。
所属してる写真サークルの打ち上げの帰りだった。オールナイトカラオケでの飲み会。
帰る時間はそれぞれご自由にって感じで、試験やレポート提出が全部終わった解放感で、先輩たちを中心に、部員のほとんどがすっかりできあがっていた。
春に二十歳になった私も、既にお酒の味は知っている。サークル内であまり目立たない存在だけど、一応、お祝いしてもらった日に、生まれて初めてビールを飲んだ。
……正直、とても苦く感じて、無理だった。おいしさが全くわからなかった私は、やっぱりまだ子供なんだろうか。憧れていた大人の味には、今でも慣れない。今夜も、アルコールの低いサワー二杯だけで、身体も心も酔ってる。
隣で歩いてる同い年の成戸くんは、その同じサークルの男子だ。言っちゃなんだけど、あまり知られていない私の好きな作家が彼も好きだった、というのがきっかけで話すようになった。
新刊の感想とか、今度はどこに撮りに行くかとか、たわいない話をするだけだったけど。学科は違うし、あまり自分のことを話さない人だから、大抵SNSでのやり取りだった。
そして、高校時代から付き合ってるという、一つ下の彼女がいるらしい。学科は彼と同じで、他のサークルに所属しているとのこと。彼を追いかけて、頑張って入学したんだろうな。
二人でいるのを、何度か見かけた事があった。活発な感じの可愛い子。周りにも公認って感じで、お似合いだった。……私を除いて。
『打ち上げの時、少し話していい?』
そんな思い切った一言を、前日の昨晩、アプリで送った。
『いいよ。明後日予定あるから、早めに帰りたいし』
彼女さんとの約束か、どこかに撮りに行くのか…… 前なら気になって仕方なかった内容だけど、今となってはどっちでもいい。
『私も長くいないから。大丈夫』
『わかった。帰り一緒ついでで良ければ聞く』
決して『送る』じゃないことが、ツキリ、と地味に痛んだ。下宿先の駅も同じだったのは、本当ラッキーだったなって、今、改めて思った。全然、特別で幸せな状況じゃないけど。
最初のコメントを投稿しよう!