文が泣く

　やらずの雨が止んだ。
　男が帰宅してみると、郵便受けに手紙が一通。
　切手が貼ってないところを見ると、家まで来て届けてくれたものらしい。
　住所も書かず、男への宛名だけ書いてある。差出人の名前も書いてない。
　だが筆跡に見覚えがある。
　一週間前に訪ねていき、別れ話をしたところ、雨が降り続き、二泊もの雨宿りに根負けして、別れ話を撤回したという、因縁の女の筆跡である。
　別れ話を撤回しておきながら、会社での縁談のため身辺整理している男は、別の女の所で別れ話をして、また雨宿りしたのであった。

　開封しながら、さぞかし女は怒っただろうなと思った。
　雨に濡れないようにと油紙に包まれている。
　女からの最初で最後の手紙。次のように書かれていた。

　お逢いできて楽しかったです
　ありがとうございました
　お元気で