柏木陽与子の日常

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          1 柏木陽与子はうっすらと眼を開き、慌ててまた閉じた。眼を閉じても目蓋の裏は明るい。また朝が来てしまっている。  (こうやって眼を瞑ってたらすぐまた夜になったらいいのに・・・)  本気で願う。願いながらそのまましばらく布団をかぶってカブトムシの幼虫のようにじっと丸まっていたが、当然夜はやって来ない。陽与子は小さくため息をついて起き上がった。  眼が覚めた瞬間、ほとんど毎朝よぎるあの暗い気持ち。今朝の原因は、加代ちゃんのことだった。  クラスの仲良しグループの人間関係を陽与子はことのほか気遣って暮らしている。最近グループ四人で交換日記を始めたのだけれど、加代ちゃんの次は陽与子の番だったと思ってたのに昨日加代ちゃんは、陽与子を飛ばしてすみれちゃんにノートを渡した。すみれちゃんは火曜日はバレエのレッスンがあるからノートを引っ掴むや確かめもせず慌てて帰って行った。  陽与子は、  (あ、加代ちゃん次私じゃない?)  と咄嗟に言えなくて、加代ちゃんもバレー部の部活に急いで行った後、なんとなくそのまま帰り支度をして帰って来てしまった。帰る道々、何か知らないうちに加代ちゃんの気を悪くするようなこと、したかなぁとずっと考え続け、  (もしかしたら、お昼休みにみんなで喋ってた時、加代ちゃんがスターズトリオのたっくんのこと、熱入れて語ってたのにあんまり反応しなかったせいかなぁ)  というところに思い至り、そう思い始めるとそうに違いないという気がして来た。  (どうしよう・・・)  加代ちゃんはグループの中でも活発でリーダー的な存在である。  (もしこのまま加代ちゃんが気を悪くしたままだったら・・・)  今は中学二年生になったばかりの五月。もしグループの中で気まずくなってしまったら来年四月のクラス替えまでどうやって暮らしていったらよいのだろう。  陽与子は目の前が真っ暗になるのを感じながら、ふらふらと立ち上がった。  (なんかお腹痛い。朝ごはんは食べない方がいいかも。お腹こわすと困るから・・・ていうか食欲ぜんぜん無い・・・)
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