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筧は壁のモニタを切り替えた。
壁一面のモニタに揚水用水路の様子が映った。リアルタイムの画像だ。
筧は絶句した。六目と七目の水路の水が涸れたようになっている。水路の底にわずかな水を残すのみで、水をたたえているとはいえなかった。
どういうわけだ?
筧は一目から五目までの水路状況を確認することにした。
いずれも正常な水位を保ち、滔々と流れている。
六目と七目の配水が停まっているという。事実だとすれば、水路のどこかで水が消えてしまったことになる。コンクリート製の水路のどこかに亀裂でもあって漏水しているのだろうか。だとすれば厄介な問題だ。上長に報告しなければならない。
監視事務所の裏で単車の排気音が轟いて、静かになった。
筧が顔をあげると、事務所のドアが開いてメットを脇に抱えた若い女が入ってきた。水路管理官の佐藤玲奈だった。二十四歳。華奢な体に似合わず、大型バイクを乗り回す。茶色く染めたショートをうるさげにかきあげながら、筧の前に立った。
「たいへんですよ。町の中心部の水路が、大雨が降ったわけでもないのに、突然溢れだしたそうです。今、消防と警察が大騒ぎしてますけど、こちらに連絡がありませんでしたか」
「いや、ない。こっちに入ったのは、六目と七目が断水したという知らせだけだ」
「六目って、あの禁忌桜の咲く場所ですか」
「そうだ」
禁忌桜と聞いて、筧は背中を冷たいものが流れるのを感じた。
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