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 五日後。水路監視局の会議室。  筧はOHP(オーバーヘッドプロジェクター)の前に立ち、集まった管理官たちを見回した。 「六つ目水路と禁忌桜の関係について、私が調査した結果を申しあげます」ひと呼吸ついて、手元の資料に目を落とした。「禁忌桜の詳しい樹齢は不明ですが潟津古刹所蔵の古文書(こもんじょ)によれば、『(おぼえ)、胡乱成る桜の(あやかし)相見え候は(そうらわば)庄や方(しょうやがた)に申しべく(そうろう) 文政八年四月三日 酉』とあります。つまり西暦1825年、今から約200年前にはあの桜がすでにあったことになります」  会議室内は静まりかえっている。筧は続けた。「水害が起きる度に、あの禁忌桜周辺に死体が集まってくるという話は知っていると思いますが、その理由は誰にもわからなかった。これをご覧ください」  筧はOHPをオンにした。映しだされたのは禁忌桜を中心に蜘蛛の巣状に広がる波打つような根だった。筧は根の部分を拡大した。根は土に覆われているが、よく観察するとどれも人の形をしているようにも見えた。それらは、頭部、手足、やせ細った胴体を連想させた。「私は、禁忌桜の根の一部を掘り起こし、切ってみました。幹の内部はホースのように空洞だったのです。いや、正確には水が流れていました」 「水だって?」会議場内がいっせいにどよめいた。「水道管みたいにか」 「そうです」筧はうなずた。「ただ、異様に臭かったです。そう、死体が腐乱したようなにおいです」  会議室内は一瞬静まりかえり、数秒後にふたたび騒がしくなった。筧は制した。「お静かに。私にはこれが何を意味をするのかは、わかりません。あとは皆さんの想像にお任せするしかない」
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