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部屋に帰ると松本はいなくて、思ったよりも… というか思った以上に部屋が綺麗で驚いた。
松本と恋仲になった大学生… もう社会人になったか? あの大学生のバイトと一緒に住んでたらしいし、大学生がちゃんと掃除してくれてたのか、とか思いながらお礼の電話を入れた。
「あ、松本? 久し振り〜。ああ、帰ってきたわ、家の事サンキューな、何だよ、綺麗に使ってくれてたじゃん、助かるわ」
松本にお礼の電話を入れてる最中も、オレにひっ付いて離れない柊木。
「ちょ… 柊木、ちょっと離れろよ」
「嫌だ」
「え? ………… はっ!?」
松本との電話の会話でオレは、素っ頓狂な声を出す。
「ハウスクリーニング? 月に二回?」
ビビる程の怖い声だったんだろうオレ、電話の向こうの松本の声は震えていた。
「領収書? チェストの引き出し?」
松本に教えられた引き出しを開けると、驚く程の領収書の山。
月に二回でおよそ四十八回、一回三万円で、これまで百四十四万円。
領収済みとはいえ、とても看過出来る額ではない。
松本との電話を切り、柊木を激しく睨む。
「どうした? 津々理、そんな怖い顔をして」
キョトンとした顔をして抱き付いたまま、オレの顔を見つめるけどよ、そんなにオマエの考え無しに付き合ってらんねぇからな。
「何だよ、ハウスクリーニングって」
「家の掃除の事だろう!」
何、威張って答えてんだよ。そう言う事訊いてんじゃねぇわ。
領収書の束をバンバンッとダイニングテーブルに打ちつけて、柊木を睨みつけた。
「何をそんなに恐い顔をしているんだ、津々理。せっかくの色男が台無しだぞ」
はぁ〜、マジで平和なヤツだな。
「な、いいか? 柊木。これからもずっと、前までみたいな暮らしが出来るとは限らないんだぞ」
二年間のブランクはある。
柊木だって仕事に戻れるのか、戻れたところで以前の様に贔屓が付いてくれるのかも分からないし、オレだって正直これからどうなるのか分からない。
このマンションだって手放す事になるかも知れない。
「俺は仕事に戻るし、津々理の絵だって高く売れる、何をそんなに憂いているんだ」
1ミリの心配もしていない柊木を、この時ばかりは恨めしく思った。
絵の勉強はしてきたけれど、オレの絵が売れる保証なんて何処にもない。
やっぱり、どこか不安な気持ちは心の片隅にはあった。
柊木のこの笑顔をずっと保てられるのか、ずっとオレの横で笑わせてやれるのか、不安になって心許ない笑顔になる。
そんなオレを心配そうに覗き込む柊木。
「どうした? 腹でも減ったのか?津々理」
柊木が真剣な顔でオレに問う。
… オマエじゃねーわ。
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