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「帰るぞ」
オレの声に柊木が黙って付いて来る。
いつものように言えよ、
「まだ気に入った服が見つかっていない!」とか「まだ欲しいものがある!」とか… そう言って買い物を続けろよ、そう思いながら隣りでしょんぼりとしている柊木を横目で見た。
両手いっぱいの荷物を車に載せて、運転席に座る。
クラブへの送迎で運転席の後ろに座るのが習慣付いているのか、柊木はいつもオレの後ろの座席に座るから、最初は
(なんでだよ)
って思ったけど、バックミラー越しに柊木の顔が見えて、それはそれでまぁ、なかなか良かった。
たまに目が合うと、嬉しそうな満面の笑みをオレに投げてきやがるから、オレだって笑顔になってた。
でも、この日はずっと外の景色を悲し気にずっと見ているだけで一度もオレの方は見なかった。
まぁ… オレのせいだけどな。
家に帰ってからも柊木は、買った物を部屋に持ち込んで籠ったままになった。
オレが悪いしな、大人気なかったと謝ろうと思い、帰ったら一緒に食べようと買った『モンブランケーキ』を皿に出して、柊木お気に入りの紅茶の茶葉、そうだなモンブランだから『アッサム』をティーポットに、湯を注ぎ蒸らした。
柊木の部屋のドアをノックしたけど返事が無い。
怒ってんのか? 悄気てんのか?
「開けるぞ」
そう言ってドアを開けた。
「どうだっ!見てくれ!」
柊木は買った何着かの服を着替えて、ファッションショーをしている。
「店で見たときはちょっと冴えないと思ったが、俺が着るとこんなに映えるぞ!」
目の前でくるくる回る柊木を見て、俺は魂が抜けそうになった。
「津々理は買った服、着てみたか?」
大きな鏡に映る自分の姿を後ろを向いて振り向いたり、手を上げたりと満足そうな柊木。
(エラク楽しそうだな)
心の中で呟いた。
「どうした?津々理、黙ったままで」
言葉も出ねぇわ。
茶ゃー淹れたって言うのも癪に触んな、そう思いながら無表情に柊木を見る。
「何でもねぇ」
くっそ、一人で茶ぁ飲んでケーキ食ってやる、そう思って柊木の部屋から離れたその時、
「津々理!買ってきたケーキを食べよう!紅茶、そうだな『アッサム』を淹れてくれっ!」
滅茶苦茶に楽しそうな柊木の声が背中に聞こえて、
「っるせー!」
思わず怒鳴った。
こめかみの血管がブチっと切れる音もした。
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