だけどやっぱり可愛いんだよ

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「絵を描くから… 」 そう言って足首まで落ちていた下着とデニムパンツを上げて柊木の頭を撫で、リビングの一角に作られた手製のアトリエにロールカーテンを下ろして籠った。 暫く柊木もそこにいる気配はしたが、やっぱどこか引っ掛かってるオレは気にしないようにと絵筆を持つ。 筆を持つと妙に落ち着く、とかってすっかり画家気取りだな、オレ、と思って自分で可笑しくなった。 今、描いている絵は鮮やかな青と群青色の薔薇に白の薔薇も入った絵。柊木に初めて贈った絵が花の絵で、大層喜んでくれたせいかオレは花の絵が多い。 少し気持ちも落ち着いてきて、夕飯の準備をしようと思い時計を見る。 柊木の好きなビーフストロガノフを作ってやろうと思ったが、今からだと時間が足りねぇな、食べるのは明日にして煮込むだけはしておこう、そう思いながらロールカーテンを開けると柊木がまだリビングにいて思いっきり振り返った。 「津々理っ!」 オレの顔を見て、これ以上ない笑顔を見せる。 キッチンに向かうオレにピッタリとくっ付いて離れない。 「邪魔だ、どけっ!」 冷蔵庫を開けて材料を選びながら、くっ付く柊木に言うと、嬉しそうな顔を向けた、 きっと、いつも通りに怒ってくれるのを待ってたんだな、可愛いじゃねぇか。 そう思うとますますオレだけの柊木にしたい気持ちが強くなる。 「晩飯、何食う?」 「何か作るんじゃないのか?」 「これは明日の… 今日の晩飯」 「そうか、では何かデリバリーでも頼もう!津々理は何が食べたい?」 オレにオーダー聞くなんて珍しいな、食いもんに関しては大抵オマエが決定権持ってるのにな、とまた変な勘繰りが入って舌打ちをした。 「デリバリーは嫌か?」 舌打ちを聞いてか、声のトーンが下がる柊木。 「あ、いや違う… 何でもいい、オマエの食いたいモン頼め」 そうか、と気が落ちている感じの柊木だったが 「寿司でも… いいか?」 いつもなら「寿司にしよう!」「寿司が食べたい!」とオレにいいかなんて訊く事はない。何を食ベようがオレは完全に柊木に合わせている。 逆に今度はオレの気持ちが落ちた。 寿司を待っている間、柊木はタブレットを開いて社会の動向を調べている。 オレは明日のビーフストロガノフ作り。 柊木は凄い。 オレといる時は国宝級の天然でおっちょこちょいのダメダメだけど、ホストになると別人になる。テキパキと何事もこなし気配りは360度行き届いて、きっと柊木の世話をするオレの何倍も出来るヤツだ。そんなヤツがオレの前ではあんな風になっちまうんだから、そりゃ愛しくてたまんねぇだろ。 タブレットを見ながら何かをよくメモをする柊木で、柊木の綺麗な字もオレは好きだ。 でもいつも『〇〇生命』とか『株式会社××』の広告が入った、その辺で貰っただろうボールペンで書いていて、下手すりゃ煌びやかなスーツの胸ポケットに差してそのまま仕事に行こうとするもんだから、オレが冷や冷やしてボールペンを取り上げる。 もうすぐ柊木の誕生日だ、ボールペンを贈ろうと思った。
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