五 やっぱり桜は…

3/4
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
 桜が嫌いな師弟連合っていうのに花見をするなんて……。  とはいうものの、桜の花はもう散りかかっている上、今私たちが陣取ったこの場所は桜の木からは少し離れていて、すぐ横に壁があって風流とは程遠いーー。 「で、また何で機動隊の隊舎横なんですか?」 「だから言ったろ?『我々』って」  多聞班長が以前言っていた、機動隊の経験者なら分かる『桜闘争』が度々ある場所。私たちはこの場所を今回の花見スポットにしたのだ。 「俺も桜嫌いを乗り越えてみようかと思ってな」 「そういうことですかぁ」  と言いながら班長は笑っている。班長の中ではここで暴れ回った『桜闘争』は若かりし頃の良き思い出のようで、どう見ても桜嫌いには見えない。  詰まるは、私を気遣ってこの場に連れて来たと分かると私も釣られて笑った。 「で、桜は嫌いか、早川?」  満開を過ぎた桜の花を見ながら、私は班長の言葉裏を読んだ。少し時間をかけて考えて、この場で一番適した答えはこれだと思った。 「ーー、吹っ切れました」  笑顔で答えて見せると、班長は目を大きくするのがわかり、私は逆に目が細くなり、続けて畳み掛けた。 「でも、やっぱり桜は好きになれません!」 「よかろう、よかろう。それも一つの答えだ」  私は気持ちが良かった。そして、それをすべて受け止めてくれる人がいることも嬉しかった。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!