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一 菜那子のほろ苦い過去
「僕は待ってるよ」
私はその日、駅のホームでそれまで付き合っていた彼氏と最後の別れを惜しんだ。
飛び抜けたものではなかったにせよ、誰にでもある通りいっぺんの楽しい学生生活を過ごせた。友達もできたし、勉強もしたし、自分探しや旅行も、そして、恋愛もーー。
つないでいた手が離れ、扉が閉まった。それが人生の大きな大きな分岐点であることを強烈に認識させられた瞬間でもあった。
学生だった自由な自分への回顧と自らの足で進まなければならない社会人、それも規律厳しい警察官というある意味不自由のあるこれからの不安とのギャップの板挟みで、あの時の私は車窓から見える淡い桜と変わりゆく季節を見ながらポロポロと涙が溢れていたーー。
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