四 乗り越えるべき壁

4/4
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
終わると同時に迎えにきた外川主任は彼に再び手錠を掛けて、彼を連れて行った。ルーティンワークのはずなのにこれまでにない緊張で、ゴム手袋の中は汗でぐっしょり濡れていたーー。 「これがあの男の本性ってもんだ」  取調室に連れて行かれる元カレの後ろ姿を見て、並んで立っている班長が私に言った。 「その友達の仕業が本当なら、彼もまた被害者かもしれないな。それと、早川もーー」  私はこの場面で一番いい答えを探した。 「本当のことが今分かってよかったです」 「ーーだな」 口調で班長の気分が分かる。 「人間追い込まれた時こそ本性……というかそいつの本当の価値が試されるもんだ。俺たちも然り」  私は後ろを振り返った。 「元カレ(アレ)に比べりゃよくやったよ。菜那子巡査」  ーーまた私を名前で呼ぶ。ずるいな、そのタイミング。 「しばらく籠って作業しときな。色々と整理が必要だろう」  班長は去り際に私の頭に手をポンと乗せて作業室から出て行った。  今し方採取した資料の整理がまだ済んでいない。さらに、デスクに戻れば雑務が残っているのを知って班長は、デスクはいいから作業室(こっち)の作業を私一人でするよう指示する。    私は班長の後ろ姿にお辞儀をして扉を閉めた。  言葉で形容しきらない感情が脳裏でグルグルと渦を巻くと、私は上を向いてしばらく立ち尽くしていたーー。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!