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終わると同時に迎えにきた外川主任は彼に再び手錠を掛けて、彼を連れて行った。ルーティンワークのはずなのにこれまでにない緊張で、ゴム手袋の中は汗でぐっしょり濡れていたーー。
「これがあの男の本性ってもんだ」
取調室に連れて行かれる元カレの後ろ姿を見て、並んで立っている班長が私に言った。
「その友達の仕業が本当なら、彼もまた被害者かもしれないな。それと、早川もーー」
私はこの場面で一番いい答えを探した。
「本当のことが今分かってよかったです」
「ーーだな」
口調で班長の気分が分かる。
「人間追い込まれた時こそ本性……というかそいつの本当の価値が試されるもんだ。俺たちも然り」
私は後ろを振り返った。
「元カレに比べりゃよくやったよ。菜那子巡査」
ーーまた私を名前で呼ぶ。ずるいな、そのタイミング。
「しばらく籠って作業しときな。色々と整理が必要だろう」
班長は去り際に私の頭に手をポンと乗せて作業室から出て行った。
今し方採取した資料の整理がまだ済んでいない。さらに、デスクに戻れば雑務が残っているのを知って班長は、デスクはいいから作業室の作業を私一人でするよう指示する。
私は班長の後ろ姿にお辞儀をして扉を閉めた。
言葉で形容しきらない感情が脳裏でグルグルと渦を巻くと、私は上を向いてしばらく立ち尽くしていたーー。
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