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調理実習を終えて、作った料理を前に女子たちが隆也の前を囲んでいる。隙あらば彼に質問を投げかけている。
『隆也くんってどんな人が好みなの?』
「卵焼きをうまく作れる人かな」
『料理上手い人が好きなんだ』
「うん、まぁ」
隆也の言葉を聞きながら、俺は箸に挟んだ卵焼きを眺めた。形は崩れて、硬いのが見てわかる。巻いていく時に戸惑って焦がしたので、断面は模様がついていた。俺は自分が作った卵焼きを口に入れ、ジャリジャリとした食感と入れ過ぎた醤油に眉を顰めた。
「全く美味しくない」
落胆してため息を吐く。『疲れたよな』と横からの声に無意識に頷いた。眉目秀麗、成績優秀な隆也は入学当初からモテている。平凡な幼馴染とは大きな差だ。もう一度、俺はため息を吐いた。
目の前に小皿に入ったフルーツポンチが置かれた。シンプルな白い皿にみかんやバナナなどのフルーツが鮮やかに飾られている。
「え?」
横を見ると、形の良い唇をあげて隆也がこちらを見ている。
「奏、疲れてるみたいだからあげる」
「いや、悪いし。いいよ」
皿を押し返すと、また戻された。
「甘いの苦手だから食べて。代わりにこれ貰うね」
「あ、待って」
形が悪い卵焼きが彼の口に吸い込まれていく。『甘いの苦手なんだ』『卵焼きが好きなんて可愛い』と言われてるのを横目に、みかんを口に含む。甘酸っぱさが体に染み込み、ほんの少し唇をあげた。
優しい。隆也からの気遣いが嬉しくて、シロップにつけられただけのフルーツがとても美味しく感じた。
「美味しい?」
覗き込まれながら尋ねられて、何度も頷く。綺麗な黒目から目が離せない。
「良かった」
安心したような笑顔を見つめていると、目の前に女子が現れた。俺たちの間に割って入り、隆也に話しかける。
「隆也くん、こっちの方が美味しいよ」
綺麗に巻かれた卵焼きを差し出していた。料理上手だという噂の彼女が作った卵焼きは焦げておらず、醤油で茶色くもなっていない。見るからに美味しそうだ。
「俺はこれで十分だから」
もう一口焦げた卵焼きを頬張って、満足そうに笑みを浮かべた。
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