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昼休みのチャイムが鳴ると、思い思いに人が移動した。友人同士で集まったり、部室に行く人たちの中、俺の席の前に隆也が座る。ゆるりと教室の椅子に座る姿でさえ、かっこよく見えて、近くの女子が視線を送っていた。部活仲間や女子の誘いを断ってまで、俺といつも昼飯を食べるのが不思議で一度尋ねたことがある。
『気が合う人と食べたい』
ありがとう、その言葉だけで幸せですと、俺は質問から何ヶ月経った今も噛み締めている。幼馴染が食堂のパンを広げる前で、俺はお弁当の巾着を開けた。
「あれ?」
小柄なお弁当箱が入っている。まさか……更に蓋を開けると、案の定可愛いタコさんと目が合った。『間違ってるよ!』と今頃、外でお弁当箱を開けている妹に念を送るが、意味はない。前からの視線を感じて目を上げると、隆也がじっとお弁当を見つめている。
「可愛いな」
つい隠そうと出した手は隆也に掴まれてしまった。彼の温もりを感じて、触れている場所から熱くなる。
「彼女?」
揶揄うような笑顔を向けられて、胸が鳴った。
「いや、あーうん」
『うん』って何だよと心の中でセルフツッコミをした。俺は彼女なんか居たことない。昔から隆也一筋だった。
「……へぇ」
彼はいつもより低い声を出し、じっとお弁当を覗いている。長いまつ毛で影が出来ていた。彼女がいないことに気づかれたか。正直に言おうと口を開く。
「たか……「食べていい?」」
「え、いいよ」
美形の上目遣いに押されて、色鮮やかなお弁当を差し出した。
「代わりに俺のパンあげる」
「あ、ありがとう」
カレーパンとクリームパンが俺の前に差し出される。毎日自前のお弁当で食堂のパンに憧れていたので、口元が緩む。
隆也が小ぶりな箸で卵焼きを挟む。薄い唇が開き、ハートの半分が彼の口に入っていくのがスローモーションのように見えるのに動悸は速い。
「どう?」
「……ふつう」
ふつう、普通かぁ。見た目もよく、白だしも入れているが美味しくなかったのか。ほんの少し気分が落ち込んだ。ずっと同じ味付けで満足していたが、味付けから変える必要があるかもしれない。俺はだし巻きが好きだったけれど、隆也はどうだろうか。
「隆也は卵焼きは甘い派?しょっぱい派?」
「しょっぱい派かな。何で?」
「何となく」
カレーパンを口に含み、不思議そうな目から顔を逸らした。カリッとした生地の中にスパイスが効いたカレーが入っていて美味しい。家で使っている白だしは少し甘めだ。色んな出汁を試してみよう。授業が終わった後、スーパーに寄ることを決意した。
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