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次の日、メーカーを変えてだし巻き玉子を作った。が、隆也はお弁当に興味を示さなかった。自分から『食べて』と言うのもおかしいし、恥ずかしい。諦めて一口食べるとこの出汁も美味しく思えた。ほぼ毎昼、パンを頬張っている彼にも食べてほしい。
『可愛いな』
前の昼休みを思い出すと、隆也は可愛いお弁当に興味を示していたことに気づいた。意外と可愛いものが好きだったのかもしれない。長い付き合いなのに知らなかった。
週明けにも、俺は気合いを入れてお弁当を作った。丸いおにぎりに海苔で顔を描き、ハートの卵焼きを並べると、可愛さパワーアップしたお弁当が完成した。母と妹の冷めた目は今の俺にはどうでもいい。隆也が食べてくれるかドキドキしながら鞄から取り出して、ハートの向きが正面になるように開けた。
目を丸くしてお弁当を覗いている隆也にガッツポーズして、彼の方へ近づけた。
「た、食べる?」
「……うん」
彼のソーセージパンで溢れる笑みを隠した。大丈夫、昨日と同じ白だしを使っている。不自然に思われないように気をつけながら、彼の一挙手一投足を観察した。ハート型が彼の口に入る。
「どう?」
「普通」
机に項垂れかかりたいのを我慢した。この出汁もダメか……。隆也の卵焼きに対する理想が高すぎる。
「美味しいと思うけど」
「俺の好みじゃない」
彼は口の端を下ろし、眉を顰めて残りの卵焼きを一口で食べ切った。
好みと言われると難しい。甘いかしょっぱいかと言うとしょっぱいのがいいという情報しかない。卵焼きに他に違いがあるとすれば食感だろうか。
「硬いのと柔らかいのどっちがいい?」
「何が?」
「卵焼きの好みの話」
「柔らかいのかな」
「だよな」
俺もふわふわが好きだ。『しょっぱくて柔らかい』好みは一緒な筈なのに、上手く作ることができていないのが悔しくて、俺は奥歯を噛み締めた。
次の日も、その次の日も朝早くに起きてお弁当を可愛く仕上げた。隆也に食べてもらえるが『美味しい』は貰えていない。悔しい筈なのに、彼に食べてもらえているという現実が嬉しくてたまらなかった。彼は何も気づいていないが、まるで恋人のようだ。
裏庭で食べているカップルのようにいちゃついてはいない。最近は渡したものの代わりに隆也からお弁当を貰っている。彼はいつもパンだったのに、黒いお弁当箱を持ってきていた。どのおかずも手が込んでいて、俺の卵焼きに合格を出されないのも頷ける。
隆也のために料理を作り、お弁当を交換することに『彼氏が喜ぶお弁当』と検索してしまうほどに浮かれていた。
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