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「嘘だ」
「嘘じゃない。昔から好きだよ」
「揶揄うのはやめろよ」
隆也の肩から顔を離して見上げると、黒い綺麗な目にとらわれた。真摯で揶揄ってる雰囲気は一切ない。彼が人を揶揄う人間でないことも長い付き合いで分かっていたが信じられなかった。
「揶揄ってない」
「信じられない」
「俺もお弁当を作って渡してたって言ったら信じてくれる?」
愛おしそうに頬を赤らませて微笑む彼から目が離せない。
「あのお弁当は……」
「うん。最近交換してたお弁当は俺が作ったんだ。奏に食べてもらいたかったから。俺が作ったもので奏が出来てると思うと、満足感が半端じゃない。美味しかった?」
「うん」
メインも付け合わせの野菜も手が込んでいて、美味しかった。頷くと唇が重ねられた。すぐにはなされ、頬に目元にキスを落とされた。恥ずかしくて目を合わすことができず、彼の体に身を任せる。
「良かった。俺の気持ちを信じてくれる?」
「信じるから、もうはなれて」
体が熱を持ったように熱い。
「付き合ってくれるなら、今は離れるよ」
「付き合う」
「ありがとう。奏、好きだよ」
「うん。俺も」
もう一度抱きしめられる。『離してくれるんじゃないのかよ』と小声で文句を言うと、耳元で笑われてくすぐったかった。
教室までゆっくりと歩いて戻る。隆也は手を繋ぎたがるが、恥ずかしいので拒否した。
「そういえば卵焼きを上手く作る人が好きって、どこ情報?」
廊下で彼が不思議そうに尋ねた。
「調理実習の時に女子たちに『好み』を訊かれてただろ」
「あー全然覚えてない。目の前に卵焼きがあったから適当に返事したのかも」
「は?」
期待を持って質問した彼女たちも気の毒だ。俺みたいに練習した子もいるかもしれない。悪びれない様子の隆也を睨むと、彼は爽やかな笑顔を向けた。
「でも今は『卵焼きを上手く作れる人』が好きかな」
「何それ。さっき適当って……」
「奏の卵焼き、すごく美味しいから」
顔を覗き込んでくる目から顔を逸らして、俺は唇を尖らせた。
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