始まり

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始まり

目が覚める。 白い天井に、手を広げても端に届かないベット。 俺は、とても大きな天蓋付きのベットに寝ている。 状況を把握しよう。 俺の名前はシリカ・イカルド。 確か、俺は死んだはずだ。 人に、親友に呪われて。 なぜこうなったか、思い出そうにも頭に霧がかかったかのように何も思い出せない。コロコロと2往復ほどバカでかいベットの上を転がっても何も思い出せない。これは重症だ。 「はぁ、まずは俺がなんで生きてるのかって事だよなぁ」 そっとベットの端に行きフカフカな朱色のカーペットに足を下ろし、部屋を見渡す。ローテーブルにそれを囲むように置かれたソファ。反対側には出窓。そして、バルコニーに通じる大きなドア。既視感。 「お金持ちなのか?王子様かなにかかよ、」 いかにも、お金をつぎ込んだと言わんばかりのその部屋は全くもって悪趣味なものだった。変わったものは置かれておらず誰もが想像する金持ちの部屋そのものだろう。奥の部屋はトイレと風呂だ。それはまたとても大きな。 「これが俺?」 鏡に映る多分、俺は大層な美形だ。自分で言うのもなんだが、肌は白く、唇は小さく引き締まっていてほんのりピンクがのっている。そして、何よりもキラキラと輝くこの銀髪は、この世のものとは思えないほど美しい。前の容姿はさほど嫌いじゃないがこれとは真反対だろう。 なんせ、黒目黒髪だったのだから。 「やはり王族か?いや、違うな。目の色が王族の色では無い。」 王族の瞳は青色をしている。髪は銀色だ。俺の目は髪とおなじ銀色で、王族の特徴から反している。だが、それにしても綺麗な容姿だ。 自分の顔をまじまじをとみていると、扉がノックされる音が聞こえた。 「入れ」 「失礼致します。ユアン様、」 黒を基調とした服に白いエプロンをつけた赤髪の女が綺麗なお辞儀をしながら部屋に入ってくる。つまりは、メイドだ。この部屋の主であろうユアン様とは、俺の事を指しているのだろう。ユアンは確か、スザルク王国の第3王子だ。しかし、俺がもしあのユアンならば少し厄介な事情を抱えているのかもしれない。 「おはようございま………………す。」 顔を上げると共にメイドは俺へと視線を向けて目をかっぴらいた。かなり、驚いているようだ。 「ユアン様…、」 メイドはそのまま驚きを隠すこともなく、俺にパタパタと近づいて腕を掴み上げたり下げたりした後ポロリと涙を零した。 「なっ……」 「目が覚めたのですねユアン様!!」 「あぁ。目は覚めたが、………?」 どういうことか分からず、首を傾けるが目の前のメイドは泣くばかりで事情を掴めない。 『やぁやぁ、ユアン。君は1ヶ月ぶりの起床なわけだけども、調子はどうだい?』 「わっ!」 アワアワと慌ててメイドさんの周りを行ったり来たりしていると、目の前にいわゆる妖精と呼ばれているような容姿の小さな男の子がでてきた。 『僕は、テテ。君の親友な訳だけど、覚えてる?覚えてるわけないか。ああっ!いいや、今は返事はいい。僕のことはエイラには見えてないからね。』 クスクスと笑いながらテテと名乗った妖精はクルッと飛んだ。エイラとはこのメイドのことらしい。 『まずは、エイラを出ていかせないとね。あんまり僕の力は使えないから今だけだよ。«誘導»』 テテがどこからか出した棒を回すとキラキラと光る粉が落ちてきてエイラにふりかかる。エイラはさっきまで泣いていたのになにも無かったようにすくっとたってそのまま部屋を出て行ってしまった。 『これで大丈夫。やぁ久しぶり、ユアン。いや、ユアンじゃないね。シリカと呼ぶべきかな。ねぇ、大天使様』 「あははっ、大天使っていつの悪名だよ。俺が賢者の称号を授かる前だな。お前、悪趣味」 『テテって呼んでよ、シリカ。僕が君を甦らせてあげたんだから感謝してよ。ずっと魂だけが分散せずにふよふよと浮いて天にも帰れずかと言って体に戻れるわけじゃない。可哀想な君をユアンの体に入れてあげたじゃないか』 そう言ってケラケラと笑う妖精はあまり俺のことは好きじゃないらしい。ならばなぜ甦らせたのか。そこは、聞いてもいいだろう。 「じゃあ、テテ。なぜ俺を甦らせたんだ?俺はどっちかと言うとあまりこの世界に蘇りたくはなかった。」 『なんでだろうね、それは言いたくないなぁ。君が蘇りたくはなかったのはキリヤがいるからだろう?君を殺した最愛の親友が。』 やはり。というか、もう確実にわかってはいたがこの世界はあまり俺が死んでから時間が経過していないらしい。俺が死んだ時にユアンは6歳で、今は容姿的に16歳。だいたい10年ぐらいか。スザルク王国に招かれたのは数回あるため何度かユアンを見たことがある。 「はぁ、結局テテは何がしたいんだ?」 『僕は君にお願いをするために呼んだんだよ。ここをね、ユアンが帰ってきたいって思える場所にして。そうしたら君の願いを僕が叶えてあげる。期限は1年。もしその間にユアンが戻らなければ君はこの体に魂が定着してしまう。つまり、この体に縛られるって訳。』 「ユアンは今どこにいるんだ?」 『その体の奥深く。誰も触れられない場所で眠ってる。ユアンからは外の世界が見えるけど、あまりあの子は外を見ないだろうね。』 「なぜ?」 『この世は残酷だから』 「そうか。なぁ、テテ。俺を選んだのは良くなかったのかも知れないな。俺もこの世界は醜くて残酷だと思う。」 俺がそう言って笑うとテテは少し傷付いた顔でフヨフヨとバルコニーへと向かって飛んで行った。 「なぁ、テテ。それでも俺はこの世界が好きだ。お前との約束は叶えてやる。その代わり必ず俺との約束を守れよ。」 『期待してるよ、シリカ。』 テテは振り返って杖を一振すると何処かに飛んでいってしまった。最後のテテの笑顔は……いや、あれはあれで面白いか。 ドアがコンコンとノックされる音がする。 「入れ」 「失礼致します。ユアン様、」 エイラは、ドアを開けると綺麗なお辞儀と共に入ってくる。そのまま顔を上げ、俺に視線をとめて大きく目を見開いた。 「おはようございま……………す、ユアン様…?」 「あぁ、」 返事をすると静かに近づいてきて腕を掴んで上げ下げするとポツリと涙をこぼす。 「おはよう、エイラ」 ニコリと笑うとエイラは俺の肩におでこを置いて少しのあいだ俯いていた。少し、床が濡れていたのは内緒にしておこう。 「失礼します。ユアン様、」 あの後エイラが医者を手配して検診され、当たり前だが特に問題はなく目が覚めてから3日がたち、これからもその日常が続くのだと思った今日、また新たな問題ができてしまった。 「初めまして、ユアン様。今日からザンガード様の命より護衛に着くことになりましたキリヤです」 何度も目をぱちぱちと閉じても変わらず奴はニコリと笑って俺の前に立っていた。 薄紫色の髪を揺らし、微笑む俺を殺した親友が。
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