過去編

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過去編

sideシリカ・イカルド 「うーん、やっぱそこは2術にならないと…」 周りをふわふわと舞う精霊の声を聞きながら魔法陣を書いていく。現在作っているのは、組み合わせの魔法だ。火と水は相性が悪く同時にできない。それを可能にし現代の魔法学を塗り替えるというのは建前で本音はただただ暇だからだ。 「また、新しい魔法の研究?」 凜とした声が頭上から聞こえ顔を上げると薄紫の髪のやけに整った見覚えのある顔があった。キリヤ•アルバス。名家の出で隣国のお偉いどこの坊ちゃんだ。と言うとのも聞いた話なのでよく知らないが。 「キリヤ。なぁ今、火と水の二重発動の魔法を作ってるんだが、精霊に聞いても分からないって。キリヤならわかるか?」 「僕は声が聞こえないからな。って何、僕まで罪着せる気か。また申請も出さずに研究か?魔法士官に捕まっても知らないからな」 「バレた?まぁもし2人とも捕まったらお前だけは俺が逃がしてやるよ」 「はあ。お前のせいなんだけどな。まぁ、期待してる」 キリヤがそう言うとフッと吹き出す。俺もそれにつられて笑いが込み上げてくる。ここは、魔法学院。12歳から16歳までの魔法使いが通う場所だ。貴族から平民までが通っており、学院内では身分関係なく、完全能力主義。つまり、能力次第で上に立つことも出来る。貴族であろうが無能は相応の扱いを受けるのだ。 そして、俺とキリヤは今年13歳で、この学院のトップになってしまった。トップ5人に与えられる個室で隠れて魔法の研究をしている。既に地形を変える魔法や、植物を成長させる魔法など様々なものを作り出し学会に発表してしまい何故か名前だけが独り歩きし、偏屈なジジイだ、謎のイケメン紳士だと噂が耐えない。 「シリカ、また学会に新しい魔法を発表しただろ。今度の噂は聞いたか?」 「え?何発表したっけ。あっ、そうだ。天候を変える魔法だっけ。なんの噂?」 あれはまぁまぁ大変だった。なんせ、気候は人間ごときが変えれるものでは無いと言われていたからだ。まぁ、実際色々とやってみたら大気をチョイっといじるだけで完成させてしまったんだが。 「天使だってよ。それも大天使。いつからお前は魔法の神様になったんだよ」 「うわっ、何それ悪趣味。今だって、堕天使って呼ばれてんのに。みんなどんだけ天使好きなのさ、」 天使。 昔、本当の昔に人間に魔法を授けたとされる神の使いだ。魔法は天使から教えられ、使えるようになった。つまり、天使は神聖なもので崇拝の一つである。そして、力を貸す精霊は天使の子供とも呼ばれ大切にされているのだ。 「お前大丈夫なのか?」 「王様か?まぁ、たぶん大丈夫だ。俺は俺のためにしか魔法を作らないからな。今の所まだ命令が来てないから、好きに研究していいんだろ。なぁキリヤ、俺がもし俺じゃなくなったら止めてくれよ。」 「お前のことを止めれるやつなんているわけねぇだろ」 「あ、痛」 コツンとキリヤが、俺の頭を殴る。 カラリヤ王国の国王はあまりいい話を聞かない。目をつけられてら最後死ぬまで、利用されてすてられる。彼を恨んで死んだものは少なくないだろう。事実、俺もこうやってこの学院に押し込められて決まった時間に運ばれてくる食事と決まった時間の間での外出が強いられているのだから。 「ほら、たまには授業に顔を出せよ、」 「あ、痛。また殴ったな、」 殴られた頭をさすりながらキリヤを睨む。 キリヤはそれを見ていたづらげに笑った。 * 「えっ?学園祭?」 「そう。シリカも出ないか?」 3日ぶりに来たキリヤは俺の研究室にソファでお茶を飲みながらパンフレットをヒラヒラと掲げた。 「俺もってことは、キリヤはなにか催しもんでもするのか?」 「あぁ。スザルク王国の国王が今年は様子を見に来るらしくてな。俺はあそこの王子の家庭教師だ。」 「キリヤが貴族なの忘れてたよ。で、それでなにか催しをしろとでも言われたのか?」 俺がそう言うと気まづそうにキリヤがそっぽを向いた。 「まぁ、それもあるけど……お前と出たいって言ったら笑うか?」 「………え………えっ!おまっ、……熱か?」 急にそんなことを言われれば誰もが焦る。完璧人格者のイケメン野郎であるキリヤが恥ずかしそうにはにかんでそう言えば誰だって混乱するに決まっている。 「なっ、そんな反応されるとちょっと恥ずい…」 「お前が急に変な事言うからだろ?まぁ、キリヤが一緒にしたいって言ってくれるなら手伝うよ、」 「ほんとか」 「魔法士に二言はねぇよ」 ちょっと恥ずかしい気持ちを残しながらもキリヤの提案に乗る。人生初での祭りというのもあるだろうが、少しワクワクしている自分がいることに驚く。こんな人間らしい気持ちがまだ残っていたなんて。 「何するんだ?」 「なにか魔法で人が楽しめるようなことしようと思ってるんだが……なにかいい魔法無いか?」 魔法で人が楽しめること、か。 あまりいいものは思いつかない。なんせ、魔法とは人を傷つけたり、自分に利益を与えるものであって人を喜ばせることとは無縁のものだ。食べて美味しいとか見て美しいとかそんなものじゃないのだ。ん?見て……美しい…、 「あぁ、最近作った魔法で、いや見せた方が早いか。ちょっと外に出るぞ《転移》」 キリヤの腕を掴んで研究所近くの森の奥に転移する。今は夜も更けてしまっているため周りには人の気配がしない。一応、遮断もつけておけば遠くの人の目に入ることは無いだろう。 「じゃあ、よく見てろよ。《光よ放て》」 「あぁ、」 上に手をパッとあげると、小さな光が空へ打ち上がりパンっと大きな音を立てて大きな花を作り出し散っていく。 「綺麗だな、これは?」 「魔法名は決めてない。ほら、天候をいじる魔法の研究あっただろ?あの途中に火魔法でどうにか大気に影響を与えようとしたんだがその時の不作品だ。まぁまぁ、綺麗だろ?」 あの時は昼だったからあまりパッとしなかったけどきっと夜なら綺麗だろうと思っていた。案の定見とれるくらいには綺麗なのだろう。事実隣に立っていたキリヤは口をぽかんと開けて目をキラキラと輝かせていた。 「シリカ、お前やっぱ天才だ!!やっぱりシリカはスザルクに来るべきだ。スザルクに来ればシリカを髪色でバカにするやつは居ない。それに、こんなところに閉じ込めないで自由に好きな時にご飯を食べることだって研究だって出来る、」 キリヤはさっきの魔法を見たそのキラキラとした目のまま俺をじっと見つめる。握られた手に力が入る。スザルクは去年にキリヤの誘いで1度訪問したことがある。この国とは違い他国の文化に寛容でしかも魔法に力を注いでいる。発展途上だが必ず近々大国になるだろう。そんな国で過ごせたらどれだけ幸せなのだろう。でも、 「キリヤ、ダメだよ。俺はね、国家の犬だから。今言ったこと誰かに聞かれてたらどうするんだよ。キリヤがスザルクの坊ちゃんだとしても、俺はただの平民で国王様の犬なんだよ、お前を守りきることは約束したけど俺が守れるのは限度がある。もしキリヤが王様に目をつけられたら俺は何も口を出すことも手を貸してやることも出来ない」 俺が絶対に逆らえない主。王様に拾われたからこそ俺はこれからもずっと王様の手足となり動かなければいけない。たとえキリヤが敵になってしまったとしても。 「悪い、興奮して変な事口走った。だけど、嘘じゃないから。シリカがスザルクに来たいって言うなら俺が一緒に国王様に話に行ってやるからな」 キリヤは心配そうに俺の頭を撫でた。 そんな日は来ないとわかっているくせに、そうやっていつも叶わない未来の話をする。 「そうだな。その時はよろしく頼むよ、」 俺の横腹にある印がいつだって俺をしばりつける。いや、あれがあるから俺はたっていられる。重しがないときっと俺はもうこの世界で立つことすら出来ない。フワフワと浮いて、多分消えてしまうのだろう。だけど、俺はまだ震える足で今も立っている。
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