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「シリカ、クラスの方で出し物をするんだが、今準備中なんだ。行かないか?」
「いかないけど、」
クラスは定期的にある魔術、学術、武術のテストの成績によってS.A.B.C.D.と分けられており、キリヤと俺はSくらすだ。初め、クラスに顔を出した時に心底嫌そうな顔で睨まれてからは最低限しか 授業に出席していない。だから、キリヤ以外は話したこともない人ばかりで別に今更なのだ。それに不自由でもない。ここでの暮らしはもう既に1年半過ぎて慣れてきてるし。
「いや、行こう」
「なっ……ちょっと、」
キリヤが持ち込んだソファに寝転んで精霊と話していると腕を急に引っ張られる。
「いかないって言った」
「行こ」
「…………っ、じゃあちょっと待って。最近作った髪の色を変える魔法で誤魔化してみるから。ま、目の色はまだ無理なんだけど。《変われ》」
黒から色が一気に抜けて茶髪になる。まぁこんなもんだろう。平民のほとんどは茶髪だから、この世界の8割くらいは茶髪だし、誰もが見なれた色だろう。
「まぁ、名前で直ぐにバレるんだろうけどね」
「大丈夫、茶髪のシリカもいいね、じゃあ行こうか」
そう言って俺の手を取ってキリヤはズンズンと本館へ足を進める。久しぶりに昼の外に出た。気持ちのいい風が頬を掠めて自然と頬が緩む。
「着いたよ、クラスの出し物は仮想世界の体験らしい。仮想世界を魔法で作り上げてその中にお客さんたちを招待するんだが……まぁ見ればわかる」
「だから、俺呼んだのか?」
「シリカなら分かるかなっと、」
2学年となって初めての顔出しだ。行ったのは入学式と、あとは最初の1週間ほど。それからはあまりというか一度も顔を出していない。この学院は成績が全てで成績が良ければ下がらない限り授業の出席は免除されるのだ。
「で、どれなんだ?長期発動するなら魔法陣書くんだろ?」
教室に入ると数名ずつに別れて、何やら作業をしていた。黒い布を囲っていたり、画用紙を切っていたりと様々だ。ちょっと、学校らしい雰囲気に気が引ける。あまり、こういう雰囲気は好きじゃない。
「キジャ様、いるか?」
「キリヤ!!どこに行ってたんだ、」
「いや、なにも。で、進捗具合はどう?」
キリヤが名前を呼んだ少年は銀髪で、碧眼が有名なスザルク王国の王子様だ。確か第2王子だ。
「あんま、いいとは言えないなぁ。仮想世界の入口は掴めたんだが、あまり空間が広がらなくて困っている。空間魔法を描いてみたんだけど、全然変わらなくて、ん〜」
「ちょっと見せて、」
キジャとそのほか2人ほどが取り囲む紙を見せてもらう。確かに、Sクラスと言うだけあって完成度は高い魔法陣がかけている。基礎はしっかりしているし、入口も完全に開けている。多分空間魔法が上手く作動しないのは出口を作ろうと魔法陣を少し複雑にしたせいでこんがらがってしまったみたいだ。
「ちょっと描いていい?」
「あぁ、もちろ…ん………えっ?君………」
魔法陣を少し手直しする。確か仮想世界と言っていったからもっとたくさんの空間を広げれるように俺が最近作った拡張魔法を書き加えておく。あとは仮想世界でお客さんの想像に影響しないように壁も作ってこちら側だけの想像を取り入れるように魔法を書き換え、出口を作れば完成だ。多分これで大体の骨格は出来たはずだ。
「これで、ちょっと入ってみて。まだ白い箱のままだから何も無いと思うけど、」
「え?」
「まぁまぁ、いいから入ろう入ろう」
キリヤが、キジャの背中を押して魔法を発動させるように促す。ほかの2人もそれについて魔法を発動すると一瞬で彼らの姿が消え、また少しすると戻ってきた。無事、仮想世界に入れたのだろう。
「ありがとう。お前、凄いな。名前は?」
「あー、えっと……」
「シリカだよ。シリカ・イカルド。」
キリヤが言い淀んでいる俺の横に立って口を挟む。俺はその声に反射して顔を上げると目の前の2人の顔色が一気に真っ青になるのが目に入る。キジャは目を大きく開いて目ん玉が今にもこぼれ落ちてしまいそうだ。
「シリカって髪の色……黒じゃないじゃないか、」
キジャが気を取り戻したのか、俺の頭をさして不思議そうに首をひねる。
「魔法だ。シリカが作った新しい魔法らしい」
キリヤは嬉しそうに俺の頭を撫でる。
今度は教室中がしんっと静まり返った。俺が魔法を解いたからだ。この学院で黒髪は俺しかいない。もう誰もが、これで俺がシリカだとわかっただろう。ゴクリと、息を飲む音が聞こえる。
そんな、とって食いはしないのに。
「俺やっぱ帰るわ。王様に呼び出されてたの思い出した。じゃあな、キリヤ「えっ?シリ……」
キリヤがなにか言おうとしていたが、聞くのもめんどくさく転移魔法で研究室まで飛んで帰る。これじゃあやっぱり無駄足だったな。あの目。恐怖と憎悪の目。入学式で俺を見る彼らの目はおぞましかった。その後もできるだけ授業に出席したが向けられる目が鬱陶しくていつしか本館に近づくことすら辞めた。
それなのに。それなのに、キリヤが珍しく教室に行こうだなんて連れ出すから。やっぱり、学校は好きじゃない。大多数が正しいあの世界は俺にはいつだって残酷だ。
*sideキリヤ・アルバス
綺麗な少年を見た。シリカ・イカルドというらしい彼はいつ見ても1人だった。興味を持ったのは入学式。スザルク王国の中でも、俺はかなり上位の魔法士だったため少し驕っていたのもある。だから、この魔法学院でも自分が首席だと思っていたのだが、全くそんなことは無かった。俺の代わりに挨拶をしている彼はこの魔法学院のあるカラリヤ王国の最年少魔法士らしい。あだ名は堕天使。カラリヤ王国の貴族たちがそう呼んでいた。
「ほら、またあいつだよ。王様の直属の魔法士だからって調子に乗りやがって。どうせ入学できたのだって裏口だろ?」
「金をつぎ込んだんだろ。平民が俺たちの上に立つことなんてありえねぇしな」
コソコソと声が聞こえてくる。それが彼の事だと分かり、その声に耳を澄ませる。わかったこととしては彼が、国王の直属の魔法士であること。平民でありながら最年少魔法士で、そしてこの世界最強の魔法士と称されていること。あとは、よく分からないが王族の犬だとよく話に出ていた。
「キリヤ、俺らが井の中の蛙なのかそれともあっちが井の中の蛙なのか。どっちだろうな。残念だな、お前の挨拶を聞けると楽しみにしていたのに。ふっ、お前自分だと思ってただろ?」
「いや、まぁちょっと自信はあったけどな。お前の親友で家庭教師なんだ、少しくらい自信があってもいいだろ?」
「自信がなかったらお前を家庭教師につけてない。それに、お前はこの世界唯一の精霊の子だ。自信がつかないわけないだろ、」
横からキジャがニヤリと顔をのぞかせる。精霊の子とは精霊が集まりやすい体質のことを言うのだが、世界で1人しか生まれないため俺が死ぬまで精霊の子は俺一人というわけだ。
「あの人の周り、精霊が踊ってるみたいだ」
「お前が人に興味を持つのも珍しいな、面白い。」
「誰のせいだと思ってんだ、天然人たらし野郎」
「褒め言葉と受け取っておくよ。キリヤが人に興味が無いのなんて元からのくせに、」
「加速させたのはお前だろ」
「はいはい、」
シリカの挨拶が終えて、パチパチとチラホラ手がなる音が聞こえ、合わせて手を鳴らす。さっきまでシリカの話をしていた彼らも忌々しそうに睨みながらパチパチと手を鳴らしている。まぁ、王族の直属の魔法士なのだから何かと逆らうわけにはいかないのだろう。だから、こうやってコソコソと陰で叩いているわけか。
それから、入学式が終わって教室移動になった。彼とは同じクラスでSクラスだった。あいつらの話によると、裏口入学と言っていた。明日実力テストがあるのでそれについてははっきりとするのだろう。彼の魔法を見るのが楽しみだ。どんな魔法を放つのだろうか。
「キジャ・スザルク、学術89武術85魔術76。キリヤ・アルバス、学術92武術96魔術97。そして、最高点はシリカ・イカルド、学術98武術96魔術100だ。まぁ、あまり入試と変わらない結果になったな。クラス内順位は張り出しておくからしっかりと自分の位置を把握しておくように。以上、」
終わりの先生の声に誰もがピリッと糸を張り上げる。これで、裏口入学ではないと発覚したわけだがそれにより、より一層周りは気に食わなかったみたいだ。シリカは端の席に座って本を読んでいる。
「負けたね、蛙は僕らだ」
「あぁ。武術はまだしも魔術で負けるなんてな、」
精霊が彼の周りを楽しそうに舞うのが目に留まる。彼は成績に興味無いのか本をペラペラとめくり黒い表紙の本を読み進めている。あれだけ楽しみにしていた彼の魔法はそこまでじっくりと見えなかった。だが、一瞬だが目にした魔力の光はとても、とても綺麗だった。赤く光る魔力はとても美しく、何年もの間練り上げ続けてきた賢者たちの魔力とさして変わらないほど洗練されたものだった。あの色は確か鴾色。
「シリカ……シリカ・イカルドか。」
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