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「キリヤ来たぞ、」
教室に顔を出すと手前の数人がギョッとした顔でこちらを見る。来てまだ数分もたっていないがもう帰りたい気持ちでいっぱいだ。
「あっ、シリ「やぁ、君がシリカ・イカルドか。僕はキジャ。キジャ・スザルクだ。この前はどうもありがとう。助かったよ。ところで、ここの魔法なんだが、これで合ってるか見てくれないか?」
「あぁ、わかった。」
「ちょっと、キジャ様。せっかく、シリカが来たのにもう少し感動に浸らせろよ」
「シャラップ」
目の前で繰り広げられるマシンガン喧嘩にシリカは目を点にして交互にキリヤとキジャの顔を見る。
「キジャ様、キリヤ様、シリカ様が困ってるよ」
「「ヒジリ」」
また1人増えた。緑の髪をひとつにまとめており、そして美形の確かヒジリ・キリアーノ。海に面した国の王子様だ。何故王族はこんなにも顔が整っているのだろうか。顔が整っていれば王族になれるのではないかと最近は疑いつつある。
「悪い。シリカ、」
「ごめんね、シリカ君。」
「あ……いや、大丈夫です、キジャ様。ありがとうございます、ヒジリ様。」
手前にいたためキジャに返事をすると奥のキリヤが項垂れているのが目に入る。仕方ないだろ、王子様を無下には出来ない。
「で、ここの魔法陣なんだけど……」
「はい。綺麗な魔法陣ですね、」
「どうもありがとうございます。シリカ様に褒めていただければ大体どこにでも通用しますね、」
キジャが書いたのかと思えばヒジリが、書いたものだったらしく、横に立つヒジリがぺこりと腰を折った。
「上手く仮想世界に繋げれていると思います。外界とも切り離せれているので………ちょっと書き足しますね。」
ほぼ出来上がっている魔法陣の端の方に補完の魔法と、継続魔法あとは縮小魔法をかけておく。そうすれば少しの魔力で仮想世界が長い間リアルに完璧に補完しておけるのだ。
「完成していると思います。どうぞ、入ってみてください。」
そっと魔力を魔法陣に込めると、近くの数人が消えた。上手く取り込めたらしい。ある程度の魔力を込めてから、魔法陣から離れる。キリヤは、中に入らなかったらしく奥の方で壁にもたれてこちらを見ているため準備物を避けながらキリヤの元へ向かう。
「どうかしたのか?」
「そういえば俺とあった時も敬語だったな、と」
「当たり前だろ?相手は貴族で俺は奴隷。俺は本来同じ教室に居ることさえ許されない存在だ。」
「そんなことは「そんなことはあるんだよ。お前も見たことないだろ?奴隷が貴族様と話している姿を」
キリヤ押し黙って俯いてしまった。こんなことが言いたくた来たんじゃないのに。
「俺は………貴族だ」
「でも親友だろ?」
貴族である前にキリヤは親友なのだ。親友には敬語の必要は無いものだと言っていたのはキリヤだ。
「そうだな。悪い、お前がせっかく来てくれたのに他の奴らとばかりいるからすこし、ムカついていた」
「そうか……」
「「あぁ〜。スゴすぎ〜」」
「楽しい〜、もう1回!!」
どっと数人が流れ出てきた。仮想世界を無事終えたみたいだ。
「やはり、流石ですねシリカ様は」
「すごく綺麗に投影されていたぞ、ありがとなシリカ」
ヒジリとキジャも出てきたようでキリヤと俺の姿を見つけて近づいてきた。睨まれることぐらいしかなかったのにこんなにも優しい視線に晒されると少しばかり頬が赤くなってしまう。ただ生きるために誰かを苦しめていた俺の研究が役に立てるだなんて思ってもみなかった。
「どうかしたのか?シリカ、………なんで泣いてるんだ?」
キリヤの言葉で自分が泣いていることに気づいた。頬に水が流れる。その感覚をいつからか忘れていた。
「ははっ………」
乾いた笑いがこぼれる。必死でとめようと何度も目を擦るがとまらない。こんなものとっくのとうに消えてしまったと思っていたのに。
「なんで……」
「シリカ、とめなくていいよ。泣いていいよ」
キリヤがぎゅっと俺の体を包み込む。暖かい。
キリヤの体の熱が伝わってくると共に止まりかけていた涙がまた洪水のように流れ出てくる。
「おれっ………おれ……ずっと……おれ…」
「うん。うん。大丈夫だよ、」
そう。わかっていたのだ。いや、わかっている振りをしていた。俺は昔から1人だとわかっている振りをした。じゃないと、生きられなかった。苦しかった。何をやっても人を苦しめることしか出来ない。人を踏みつけなければ生きていけない。そう思ってずっと諦めてきた。自分が苦しめた人達の時間はもう止まっているのに自分だけが今もさまよっていてずっと、顔も知らない彼らの声だけが聞こえてくる。それは、自分の業で自分の責任だった。それなのに、彼らは俺に笑いかけた。ありがとう、と。楽しかった、と。そんなこともう誰からも言われることは無いと思っていたのに。
涙がとまらない。
俺はこのために生きていたのだと、思うほど胸はドキドキと高鳴り生を主張する。
笑顔が好きだ。人の笑った顔が好きだ。
そして俺は気づいてしまった。
キリヤが好きなんだと。
俺はキリヤの笑った顔が好きなんだと。
この熱は多分キリヤから伝わってくるだけじゃない。俺の体も熱を発しているのだろう。ドキドキと胸が高鳴るのを感じる。
「ごめん、ごめん……ごめんなさい、ごめん」
ただ、こぼれるのは謝罪ばかり。こんな俺なんかに愛されてしまったキリヤへの謝罪。それでもキリヤは俺から離れずにぎゅっと腕をしめた。伝わってくる熱は暖かくて優しくて。キリヤはそれからも両親ですら抱きしめてくれなかった俺をめいいっぱい手を広げて包み込んでくれた。
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