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灼熱の息吹
「なっ…どういうことだ?バーニングブラストは上級魔法だぞ!全く効いていないじゃないか!?」
焦りと恐怖と絶望が入り混じった様子で胸糞勇者様が阿呆なことを言い出した。
「そりゃあ、そうですよ。いくら上級魔法とはいえ、火属性に耐性がある相手にそんなものが効くわけありません」
淡々とそう説明する。
そもそも、そんなことも分からない自体が理解不能だ。
ダメージを与えるどころか、却ってレッドドラゴンを刺激してしまっただけである。
しかも、初めから逃げる選択を選ぶべきだったのに、それすら胸糞勇者のくだらないプライドのせいで台無しにした。
もう怒りを通り越して呆れしかない。
「くっ…火属性しか得意でない俺では相性が悪いと言うことか…」
なんか格好つけた言い訳してやがる…
そんな問題じゃないんだよ…
そうこうしている間にレッドドラゴンが動き出す。
再び、空へと向かって咆哮を上げた。
その衝撃で辺りに地響きが起こる。
そして、レッドドラゴンが次のモーションへと移った。
頭をぐいっと上に上げたのだ。
…やばい!来る!
「勇者様!すぐにこの場から離れてください!レッドドラゴンの攻撃が来ます!」
胸糞勇者に向かってそう叫ぶも、反応がイマイチだ。
ダメだ…
おそらく絶対の自信を持っていた大技が全く持って歯が立たなかった胸糞勇者は完全に戦意を喪失している。
視線を再びレッドドラゴンに向けると、すでに上に上げていた頭を下げていた。
そして、こっちへ向かって口をパカッと開く。
その瞬間、レッドドラゴンの口から炎炎たる猛火が放たれた。
レッドドラゴンの灼熱の息吹。
舌打ちをして、すぐに横へ飛んだ。
その際、胸糞勇者のマントの後ろ襟をグッと掴んで引っ張る。
炎による焼けるような熱さがあっという間に周囲に広がった。
勢いよく迫ってきた炎を瞬時に転がるように移動して、なんとか避けることに成功する。
レッドドラゴンの灼熱の息吹が通った跡を見ると、地面が真っ黒に焦げて、チリチリと音を立てながら煙が上がっていた。
立ち上がって、すぐに胸糞勇者に視線を下ろすと胸糞勇者の足の擦れ擦れのところに灼熱の息吹の跡があり、胸糞勇者の脚の所々に火の粉が飛んでいる。
ふぅ…間一髪セーフ。
と胸を撫で下ろすも、あまりそんな悠長なことは言ってられない。
胸糞勇者からレッドドラゴンへと視線を移す。
再びグッと頭を上げて次のモーションへと移っていた。
すぐに第二撃が来る…
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