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胸のロザリオ
「勇者様、立ってください!さっさとここから逃げますよ!」
尻餅をついて固まったまま動かない胸糞勇者を急かす。
「…無理だ」
「はっ…?」
胸糞勇者の返答に思わず怪訝な表情を浮かべる。
「腰が…腰が抜けてしまって、立てそうにない…」
「あぁ!?」
胸糞勇者の信じ難い言葉に心底がっかりする。
…もう、免許返せよお前。
ため息を漏らしたと同時に右手で胸のロザリオをギュッと掴んだ。
そして、勢いよく引っ張って、ロザリオのチェーンを引きちぎった。
やれやれ、結局こうなったか…まあ、仕方ない。
ロザリオを握ったまま、レッドドラゴンを確認する。
今にも灼熱の息吹を吐きそうな状態だ。
私はそっと目を瞑った。
そして、右手に集中する。
「…おおいなる神よ。我に力を与えたまえ…」
囁くようにそう唱える。
すると、右手の中にあるロザリオが輝き出した。
パッと目を見開いて、ロザリオを放り投げる。
その瞬間、ロザリオがみるみるうちに大きくなっていく。
やがて、大きさが落ち着いた時、私の手元に落ちてくる。
その時には右手だけでは持てない大きさに変化していた。
大体、私の身長の二倍はある。
それを両手で掴んで、レッドドラゴンの灼熱の息吹が放たれるのを待つ。
レッドドラゴンが再び、その大きな口を豪快に開いた。
その瞬間、凄まじい炎が勢いよくこっちへ突っ込んでくる。
その炎を目掛けて、私は力一杯ロザリオを右から左へと振りかぶった。
灼熱の息吹がロザリオの振った方へと進路を変更する。
いや、進路を変更させたのだ。
そして、灼熱の息吹は私の立つ左側を通り過ぎていった。
それにとりあえず安堵して、ロザリオをくいっと持ち上げて、右肩へ乗せる。
空を飛んでいるレッドドラゴンが再び咆哮をあげた。
それに何の意味があるのかは分からない。
もしかしたら、人間如きに自慢のブレスがいとも簡単に躱されたからだろうか?
…まあ、そんなことはどうでもいい。
そう心中で呟いて、ロザリオを再び両手でしっかりと持つ。
それから私は力強く地面を蹴って、空高く舞い上がった。
レッドドラゴンよりも高く…
そして、ドラゴンの頭上を捉える。
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