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なんちゃって勇者が村にやってきた
「エメ!勇者様よ!勇者様が村にやって来たわ!」
教会の裏手で掃き掃除をしていたら、修道服姿の同僚のミーナが騒がしそうにこちらへ駆け寄ってきた。
その様子と彼女の台詞に思わず怪訝な表情を浮かべてしまう。
朝からクソ寒いというのに神父様から教会の周りの掃き掃除をしろと命令され、ただでさえ気分が悪い時に勘弁して…
「…勇者様ね。私は興味ないわ」
私の前で立ち止まったミーナに手のひらを左右に振ってそう答えた。
ミーナの首から下げたロザリオが激しく揺れている。
そんなに大慌てするほど大層なことかね…?
第一、こんな偏狭な村にやってくる勇者なんて勇者崩れのなんちゃって勇者に決まっている。
勇者が溢れているこの世の中で全ての勇者が優秀な訳ではない。
勇者の資格を得ても、その実力が伴わなければこうして小さな村を回って、小さな手柄を立てて村からお礼を貰っている。
まあ、なんちゃって勇者だ。
「勇者様だよ?いいの?今、広場で村の人たちを集めていたわ。何でも村人たちに頼みたいことがあるみたい」
断る私をミーナが不思議そうな眼差しで見ている。
ん…待てよ?
あの勇者様が村の人々を集めている?
なら、行かなくてはいけないんじゃないのか?
神父様の命令より、仮になんちゃってでも勇者様の命令の方が上の筈。
そう考えたあとで私は一人笑みを浮かべた。
「ミーナ!そりゃすぐに行かなきゃ勇者様に失礼だ!さあ、広場へレッツGO」
と少し大袈裟に声を張り上げて、持っていた箒を明後日の方向へと放り投げた。
そして、ミーナの両肩を後ろから押して、至急広場へと向かおうと促す。
「あれ?エメは興味がなかったんじゃないの?」
ミーナが首を傾げながら振り向くが、構わずにミーナを急がせて広場へと向かった。
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