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ドラゴンの谷
なんちゃって勇者様にご指名を受けて、私はドラゴンの谷への道案内をする羽目になった。
あれからほどなくして、私と勇者様は村をあとにして、ドラゴンの谷へと向かったのだ。
こんなことなら、大人しく教会の周りの掃除をしておけば良かった…
くそっ、神父様めっ!
…しかし、村で見た勇者様と今後ろを歩いている勇者様は同一人物なのか?
「おい、女!まだドラゴンの谷には着かないのか?もうかれこれ数時間以上歩いているぞ!」
とまあ、村を出た途端こんな調子だ。
「…もう少しです。今は霧が濃くてあまり見えませんが、この方向にドラゴンの谷はあります」
前方を指差して、偉そうな勇者様に説明する。
岩山に囲まれた上り坂をずっと上り続けているので、初めてドラゴンの谷に来る者は遠く感じてしまうのだろう。
「…全くこんなことなら村であらかじめ食料を頂いておくんだったな」
後ろの勇者様がそう言って、舌打ちをする。
「ところで何で私だったんですか?」
後ろを振り返らずに勇者様に訊いた。
「あっ?」
背後から、いかにもという感じの声が聞こえてきた。
それに苛立ちを覚えるも、なんとか心を落ち着かせる。
堪えろ私…
「いや、だってドラゴンの谷への道案内なら、大抵の村人が出来ますし、それこそドラゴンの谷を熟知していて、より戦力になる男性もいましたよ?」
そう言ったあとで、すぐに感に触るため息の音が耳に入ってきた。
「そりゃあ、男より女の方がいいだろ。ただでさえあんな場所へとわざわざ出向くのに、なんで好き好んで男を同行させなきゃならない?考えただけで吐き気がする」
勇者様の返答に勢いよく振り向いて、思わず胸を隠すポーズを取った。
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