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「おいおい勘違いするな。お前などに興味はない。ただ、むさ苦しい男と二人っきりでいるのが苦痛だっただけだ。かといって、いい女を連れていくのも仕事に身が入らない。だから、わざわざ色気の無さそうなお前を選んだんだ。あと、回復魔法を使えるシスターということも含めてな」
あっ?
今、何て言った?
その首へし折ってやろうか?
勇者様の失言に殺意が芽生える。
「おい!アレは何だ!?アレがそうなのか?」
勇者様には見えないように拳をわなわなさせていると、急に勇者様が前方を指差して騒ぎ出す。
その方向へと視線を見上げた。
すると、濃い霧が晴れて、空へと高く続いている険しい岩山が露わになっている。
そして、ドラゴンの鳴き声のようなものが聞こえてきた。
「ええ、あれがドラゴンの谷です」
前方を見据えたまま、そう説明する。
「…思っていたよりも随分と険しそうだな?」
勇者様がドラゴンの谷を目の当たりにして、少々怯んでいる様子だ。
「どうします?やめますか?」
すっかり足が止まっている勇者様に向かって訊いた。
「馬鹿言え!俺を誰だと思っているんだ?勇者アルテガ様だぞ!あんな谷如き怖くもなんともない!」
自らを様付けする愚かな勇者様がそう強がりながら私を追い越していく。
小さくため息をついて、すぐにあとを追う。
やれやれ、この調子だと先が思いやられそうだ…
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