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ドラゴンうさぎ
私となんちゃって勇者はドラゴンの顔の形をした岩の入り口をくぐり抜けて、ドラゴンの谷へと足を踏み入れた。
霧が晴れたといえ、辺りはややモヤがかかっていて、常に足場は見えにくい。
そのせいもあってか勇者様の足取りはゆっくりで、再び私が前を歩いていた。
時々、聞こえてくるドラゴンの鳴き声が先程よりも大きくなっている。
歩きながら胸のあたりにあるロザリオを右手でギュッと握った。
しかし、特に反応はない。
そのことに少し安堵して、ゆっくりと先に進んでいく。
出来ればここの主には出くわしたくはない…
そんなことを考えていると、いつの間にか勇者様が隣にやってきて私の肩をぽんぽんと叩いた。
…やめろ、気安く触るな。
心中で文句を言う。
「おい女。アレは何だ?」
勇者様が先を指差して私に訊いた。
その方向へと私も視線を移す。
すると、岩陰のあたりに四匹のドラゴンうさぎの家族がいた。
二匹の子供にその両親といったところだろうか?
「ああ、ドラゴンうさぎですね。温厚な性格なので、危害を加えない限りは襲ってくる心配はないですよ」
名前の通り、うさぎの姿にドラゴンの羽と尻尾がついたドラゴン系のモンスターだ。
白い身体に体長二メートルくらいの大きさで、ドラゴンにしては割と小さめである。
「なるほど温厚か…それは丁度いい」
そう言って勇者様が私の前を通り過ぎて、そのドラゴンうさぎの家族の方へと歩いていく。
そして、背中に掛けている剣を鞘から引き抜いた。
「ち、ちょっと何する気ですか!?」
思わず声を張り上げた。
するとその瞬間、勇者様が勢いよくドラゴンうさぎの家族の方へと向かっていく。
勇者様に気づいたドラゴンうさぎたちが警戒するように鳴き声を上げた。
そして、一匹のドラゴンうさぎが他の三匹を守るように前に出る。
どうやら、お父さんのドラゴンうさぎのようだ。
勇者様は迷うことなく、そのお父さんドラゴンうさぎに剣を振り下ろした。
その瞬間、ドラゴンうさぎの悲鳴が辺りに響き渡り、同時に鮮血が勢いよく飛び散る。
…なっ!?
勇者様の行動に私は思わず言葉を失った。
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