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なんちゃって勇者から胸糞勇者へ改名
「ちっ、服が汚い血で汚れてしまったじゃないか?…まあ、その方がモンスター退治感は出るか」
ぐったりと血を流して倒れているドラゴンうさぎを見下ろしながら勇者様がそんな台詞を吐いた。
少し離れたところからそのあり得ない光景を私はただ見つめている。
堪らず右拳をぎゅっと握りしめた。
なんちゃって勇者…?
…いや、あんなのは胸糞勇者に改名だ。
静かな怒りが心の奥底から芽生えた。
お父さんが殺されて、鳴き声を上げながら子供たちのドラゴンうさぎがお父さんに近づこうとするのをお母さんドラゴンうさぎが抱き抱えるように止めている。
胸糞勇者様はそんなことは構わずにもう動かなくなったお父さんドラゴンうさぎの頭をグッと持ち上げた。
「お、おい!何をする気だ!?」
突然の胸糞勇者様の行動に思わず言葉遣いが崩れる。
慌てて駆け寄った瞬間、私の顔に赤い血が飛んできた。
胸糞勇者がお父さんドラゴンうさぎの頭を切り落としたのだ。
「…何てことを!?」
胸糞勇者の背に向かって非難する。
「あっ?何を言っている?証拠を村に持って帰らないと意味がないだろう?」
さぞ当たり前のように胸糞勇者がこちらを振り返って言った。
胸糞勇者は剣を背に納めて、その頭を拾い上げた。
先程よりも激しくドラゴンうさぎの子供たちが騒ぎ出す。
「…ドラゴンうさぎは温厚なドラゴンです。村人たちもそれは知っています。無理矢理襲ったのだと気付きますよ?」
なんとか精神を落ち着かせて、言葉遣いを正す。
「なぁに、突然暴れ出して襲ってきたと主張するさ。仕方なかったと言ってな」
胸糞勇者が不敵な笑みを浮かべた。
こんなやつが勇者を語る…世も末だ。
「さあ、村に戻るぞ。目的は果たしたからな」
胸糞勇者が偉そうに私に指示をする。
「…分かりました」
まあ、初めからどうせこんなことだろうなとは思っていたから、あまり驚きはしない。
…勇者か。
魔王を倒すための勇者という肩書きがどんどんこんなやつらのせいで汚れていく…
そんな落胆を覚えた矢先、胸のロザリオが激しく揺れて反応を示す。
!?
その瞬間、辺りが急に暗くなる。
それが影だと理解した私と胸糞勇者は同時に上空を見上げた。
すると、真上に馬鹿でかい紅いドラゴンが大きな翼を広げて、私たちを睨みつけるように見下ろしていたのだ。
そして、そのドラゴンは空へと向かって咆哮をあげた。
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