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ドラゴンの谷の主
…しまった迂闊だった。
ドラゴンうさぎの子供たちの鳴き声が大きくなっていたのは、ただ父親を殺された悲しみだけではなく、ドラゴンの谷の主を呼び寄せるためだったのだ。
胸糞勇者に苛立ちを覚えている間にすっかり冷静さを失っていた。
…全くらしくない。
「おい!アレは何だ?」
驚きと焦りが入り混じった表情で上を見上げながら、胸糞勇者様が私に訊ねた。
「見ての通りドラゴンです」
と冷たく対応する。
「そんなことは見て分かる!俺が訊いているのはアレは一体何のドラゴンなんだと訊いているんだ!」
その質問に思わず呆れて言葉を失う。
お前の愚かな行為によって、呼び寄てしまったこの谷の主だよ…
出来れば出くわしたくはなかったのに…
思わず深いため息が漏れた。
「おい!訊いているのか女!?」
胸糞勇者様が苛立ちながら吠えた。
「…この谷の主であるレッドドラゴンですよ」
冷ややかにそう答えた。
「レッドドラゴン…」
私の返答に思わず胸糞勇者の表情が強張った。
どうやら名前はご存知のようだ。
「そんなものがいるなんて俺は聞いていないぞ!どういうことだ!」
胸糞勇者が怒りを私にぶつけてくる。
「どうもこうも、この谷を訪れるということはレッドドラゴンの存在を知っていることが前提です。少なくとも村の人々はそう思っていましたよ。ドラゴンの谷に行くとは、なんて勇敢な勇者様なんだと」
私の説明に胸糞勇者様が顔をひくつかせる。
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