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第一章:太陽は輝き、北風は冷たくて
<真白Side>
枕元に置いてあったスマートフォンが無機質に羅列された音を発する。もうそんな時間なのか。目覚ましを止めて重たいカーテンをあけると目を開けられないほどの眩しい光が真白に当たり、それを浴びるように精一杯腕を伸ばす。
そういえば、母親は今日からロケで暫く帰って来られない話をしていたし、父親は学会で先週からアメリカに行っている。小さい頃はそんな日常が寂しくて普通の家族に憧れていたものだが、もうそれにも慣れて、寧ろのびのびと過ごせることに感謝をしている。
「アイツ…起こさないとな」
ベッドに戻り慣れた手つきで枕元にあるスマートフォンのリダイヤルボタンを押す。呼び出し音が鳴り続けるが、一向に相手が電話に出る気配がない。それは日常故に真白は電話に集中することもなく、身支度を進めながら相手が出るのを待つ。
「……は…い」
受話器の向こうから明らかに今の電話で起こされたと言わんばかりの低音の不機嫌な声が聞こえる。
「緋色?僕。真白。聞こえてる?」
「……」
「今日九時入りだよ。インタビュー取材だから絶対ライターさん待たせちゃダメだよ」
「……」
多分聞いてはいるのだろうが、一向に頭に入っていないのはこちら側からもすぐにわかる。
「緋色…今日のインタビューの項目にさ『トリコロールの秘密』っていう項目が入っているんだけど、僕、緋色の秘密について話そうと思うんだ。例えば緋色の…」
「おい! ちょっと待て何話すつもりなんだよ!」
動揺して目が覚めた人間の反応が手に取るようにわかって、面白すぎてくすくすと真白は笑う。なんとわかりやすい反応なんだろう。
「ふふふ。秘密だからここで話したら秘密にならないよね」
「テメエ…リーダーに向かって…」
「はいはい。大体リーダーたる人間が他のメンバーに朝起こしてもらうこと自体どうかと僕は思うよ」
「……」
痛いところをつかれてぐうの音も出ない相手と話すのはなんと楽しい事だろう。自分の中のサディスティックな一面に真白はにやりとしたが、時間的にはそんなに楽しんでる余裕もなさそうだ。
「まぁいいや。とりあえず現場に九時だよ。場所も間違えないようにね」
「わかった」
電話を切りクローゼットに掛かった服をパラパラとめくり、服を決める。今日のインタビューは若者向けの雑誌だから、少し服を崩していった方が印象的には良さそうだ。比較的このあたりの『読み』は真白の得意な分野でもある。グループの中の自分の立ち位置にも気を使うし、トリコロール自体がどう見られているかにも再三の注意を払う。アイドルとは夢を売る仕事なのだ。
服を着て、腕にはめた時計を見る。もうすぐ事務所の迎えの車が着く頃だろう。外から聞き慣れたエンジン音が近づいてきた。
「ビンゴ」
真白はくすっと笑いながら戸締まりを済ませ迎えの車に向かった。
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