第三章:吹き荒れる北風、灼熱の太陽

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第三章:吹き荒れる北風、灼熱の太陽

<緋色Side>  事務所の社長の手前もあって、その場では納得した。  差し出されたままになっていた、雪野真白の手をとって、普通に握手するように努力した。会議室を出てからも緋色の心はモヤモヤとしたままだった。 (ユニット? この俺が?)  緋色は、決して口には出さなかったが、ダンスに関して自分が一番上手いと自負していた。歌はどれだけレッスンをしても凡人以上にはならなかったのは否めないが、少なくとも他人より秀でるものがひとつでもある。それならば、ひとりでやっていけるのではないだろうかと考えていたのだ。 「三年経っても成長していないね、君は」 「は?」  無言で肩を並べて歩いていた真白がくすくすと笑いながら、緋色を見下したような目で見つめてきた。 (こいつ、どこかで……?)  その真白の表情に、緋色は幾分かの既視感を抱いた。 「さっきからなんだよ。おまえと俺とは初対面のはずだろ」 「覚えてない?君と僕が会うのは二回目だよ」 「何?」 「ちなみに君よりは少なくともこの業界では十年は先輩だ」 「マ、マジ……か?…です」  慌てて敬語にしようとする緋色に、真白はいよいよ吹き出した。本当は沸々と苛立ちがこみ上げるものの、先輩と聞いては口答えできない。緋色はぎりぎりと歯ぎしりをするしかなかった。 「同じグループの仲間になるのだから教えておくよ。僕は、以前、本名の佐伯真という名前で活動していたんだ」 「佐伯真……っあ!」  佐伯真。緋色がエキストラで出演したドラマの主役だった役者だ。当時、活躍していた佐伯真と目の前にいる雪野真白は同一人物だったのだ。  忌まわしき三年前のことが思い出される。 「てめぇのせいで、俺は三年間……」 「君がいけないんだろ?エキストラの分際で主役にエラソーな口を聞いたりするから。まぁ僕が何かを頼んだわけじゃないけど、勝手に事務所が君を謹慎にしただけさ」  あの日をきっかけに事務所の人間の態度が変わった。そのことを真白も知っていたようだ。 「……まあいい。おまえのせいで、俺はこの世界で頂点に立つという夢ができたんだ。むしろ感謝したいくらい……です」  親に厳しく躾されたせいか、緋色はとにかく上下関係には厳しい。自分がこの世界で下であるならば、なおさら自分の態度を改めないといけないのに、苛立ちから、どうしても言葉の節々が乱暴になる。語尾にしか気を遣えない程に、苛立っていた。 「同じグループということなら敬語は不要だよ。僕も過去の活躍はなかったことにして心を新たにするつもりだから」 「どういうことだ……?」 「まぁ、君にとっては腹立たしい存在だとは思うけど、よろしく頼むよ」 『過去の活躍はなかったことにする』  緋色自身はあまり佐伯真という役者については詳しくなかったが、それでも主役クラスの芸能人だったことは確かだ。その活動をなかったことにして、今こうして緋色と同じようにアイドルとしてデビューするというのはどういうことなのだろう。  疑問は残ったが、まずは社長に指示された衣装室へ二人で急いだ。
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