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衣装室には、スーツ姿の男性が一人いただけだった。彼は部屋に入ってきた緋色と真白に気づいて、ぺこりと頭を下げた。
(スタッフか? それにしてもなんだか若いな)
「あのー、社長にここに来るように言われたんスけど」
「あ、えっと、はい」
しどろもどろの彼は、どうやらあまり事情をわかっていないらしく緋色と真白の顔を、かわるがわる見た。
「もしかして、君が水原蒼?」
「え?」
「は、はい……そうです。実は、俺もここに来るように言われて」
「もしかして、三人目って」
そこにいた挙動不審の男性は、Tricoloreの三人目のメンバーである水原蒼だったのだ。
三人で話もできないまま、すぐにスタッフが入ってきて、衣装の採寸が始まった。仮の衣装でアーティスト写真を撮ったり、契約書にサインしたり、その日は落ち着かないまま、追われるようにスケジュールをこなした。
合間に少しだけ話ができたが、蒼は実際の年齢は二十三才で、プロフィールは十八の高校生で売り出すという事務所の方針らしい。
それを聞いて、それは立派な年齢詐欺だ、と緋色は非難しようとしたが、立ち上がった瞬間、真白が緋色の腕を掴み、阻止をした。
「なにすんだ!」
「いろいろ事情があるんだ。意義を申し立てるのはすべての事情を把握してからにしろ」
結局、蒼の年齢詐欺については、その後、本人からきちんと説明を受け、協力してほしいと頭を下げられたのと、蒼が緋色と負けないくらい熱い気持ちを持った人間だったこと、そして真白よりもうんと常識人だったこと、何よりも緋色が蒼のことを気に入ったのが大きかった。
そもそも自分だって三年前のことがある。真白も心機一転で頑張るといっている。緋色は三人で励まし合い、頑張っていけたらと思っていた。
それなのに、実際はうまくいかなかった。
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