第三章:吹き荒れる北風、灼熱の太陽

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<真白Side >  デビューまでに時間がないということもあり、連日ダンスや演技や歌唱レッスンで放課後と休日のスケジュールはほぼ埋まっていた。それは過酷であったが、真白にとってはアイドル活動を始める前より充実感に満たされていることは確かだった。あんなに適当な気持ちで引き受けたアイドル活動に真白が少し本気で向き合いはじめたのには、蒼の存在が大きかった。  三人の初対面の時、蒼は緋色や真白より六つも歳上だというのに、挙動不審で、どこか頼りなさばかりが目についていたが、レッスンが始まると何かと意見が対立する緋色と真白の調整役になり、必ず二人が納得する形でまとめあげてくることに緋色も真白も一目を置いており、不思議といつの間にか年の差を感じることなく自然にグループに溶け込んでいった。  しかし蒼が調整役になってくれたものの、緋色と真白の関係の悪さは相変わらずだった。  緋色の向こう見ずなところは昔から全く進歩していないようだったし、自分がレッスンで納得出来ないとスケジュールを無視してとことん突き詰める為にレッスンが深夜まで及ぶ事も日常的だった。完璧を求めてとことん追求をする緋色と全体的なスケジュールを考えてある程度の妥協で先に進めたい真白。それは完全に水と油のような関係になっていた  その日はスケジュール的に押しているダンスレッスンの日だった。元々集合時間ギリギリにしかレッスン室に来ない緋色だが今日に限って時間を過ぎても現れない。サボりか寝坊か、とイライラとした気持ちをぐっとこらえ蒼に話しかける 「緋色、今日どうしたのか、蒼聞いてる?」 「あっ昨日帰り際に先生に今日のレッスン休む話をしてたみたいだよ。なんだか赤点取っちゃったみたいで、補習なんだって。赤点とか懐かしいな」  くすくすと蒼が笑う。  そもそも赤点を取るヤツなんているのか、と真白は目を丸くした。真白の学校は都内でも有数な進学校であり、真白自身も校内順位は常に十位以内をキープしていた。?元々そつなくなんでもこなせる人間から見たら緋色の赤点は到底理解しがたい。 「アイツそんなに馬鹿だったのか」 「真白くんも案外ハッキリ言うね。レッスン漬けだし、勉強する時間が取れなかったんじゃないかな?でも川嶋さんにバレたら相当絞られるかもね」 「おそらく」  川嶋は学業や社会人としての仕事を優先としろが口癖だ。レッスンも放課後と休みの日以外は絶対に組み込まないくらいだ。 「そうだ真白くん今日レッスン終わったらご飯一緒に食べて帰らない?」 「了解」  おそらく今日のレッスンは早めに終わるだろうと真白も踏んでいた。その予想どおり滞りなくレッスンは終わり、夕食を食べるために事務所を後にした。
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