第一章:太陽は輝き、北風は冷たくて

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<緋色Side >  Tricoloreの三人は、今日は朝から雑誌の取材でスタジオにいた。午前中はスチール撮影を済まし、休憩では出されたお弁当をすべてたいらげ、午後からのスケジュールを確認するべく、入口に貼りだされたタイムスケジュールを三人並んで眺めていた。 「二人ずつの対談形式らしいな」 「へー、おもしろそう」  午後からの予定はメンバーを二人ずつでローテションして対談を行うようだった。 「最初は俺と蒼みたいだな」  スケジュールを見た真白が、緋色の肩をぽんと叩いて背を向けた。 「じゃ僕は控室に戻るね 」 「うん、あとでね」 「緋色、僕がいないからって調子にのらないでよ」 「わかったよ、うるせーな」  緋色は、スタジオを出ていく真白の背に向かって言い返し、小さくなるその姿をぼんやり見つめていた。クスクスと笑い声がして、声の主はどうやら隣に立っていた蒼のようだった。 「なんだよ、何がおかしいんだ」 「いや、緋色くんって本当に真白くんの言うことはちゃんと聞くよね」 「そ、そんなことねーよ」  まるで子供が"言うことを聞いて偉いね?"と言われているみたいでなんとも照れ臭い。緋色は思わず蒼から目を逸らした。 「あ、あいつは、芸能界では先輩……だからな!」 「まあ、たしかにそれもあるんだろうけど?」 「なんだよ」 「ううん、別にー?」    蒼のニヤついた顔の理由を問いただしたかったが、すぐに記者の人たちがスタジオ入りしてしまい、会話はそこで途切れ、取材がはじまった。 ※※  最初の記者からの質問は、それぞれ相手の第一印象を聞きますので答えてください、とのことだった。 「蒼の第一印象は、とにかく歌が上手いってことかな!」 「わあ、ありがとう。緋色くんの印象は明るくて元気で、みんなをまとめてくれて頼りになるって感じ」 「リーダーだからな、当然だ」  ふふんと腕組みをすれば、待ってましたとばかりに記者の隣に座っていたカメラマンが緋色に向けてカシャリと撮影する。  榊緋色はTricoloreの中ではリーダー、ということになっている。実際は真白のほうが芸歴も長く、周囲との調和を考えて冷静な判断もできるので、グループをまとめる役として適任だと緋色は感じていた。しかし、いろいろ複雑な事情があって、真白が自分からはあまり表に立とうとはしない。一方の蒼は、緋色や真白よりも年上の社会人なのだが、どうも優しすぎて引っ張っていくというキャラではないし、優柔不断のせいか決定力に欠ける。  消去法に近い選出で、リーダーになった緋色だが、その立ち位置は自分でも気に入っている。なんせリーダーは目立つ。インタビューのときも積極的にマイクを向けられるし、位置もだいたいセンターだ。歌はちょっと他の二人より劣るけど、ダンスには自信がある。アドリブもきくし、トークもそれなりに面白く返せる……と思っている。  けど、それはすべて真白のおかげだ。周囲には見えないように裏で緋色にアドバイスしたり、助け舟を出してくれているのは真白で、緋色は真白には頭が上がらない。 (最初はそんなやつだと思わなかったのに)  緋色は、インタビューを受けながら、真白とはじめて会ったときのことを思い出していた。
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