第一章:太陽は輝き、北風は冷たくて

3/5
前へ
/35ページ
次へ
***  緋色が芸能界で活動を始めたのは中学一年のときだ。小学生の頃からお調子者で目立ちたがり屋だったこともあって、姉が勝手に事務所に履歴書を送ったのだが、面白そうだとすぐに受け入れた。そして、幸いには自分にはアイドルとしての素質があったのか、そのまま歌とダンスのオーディションに合格し、訓練生という立ち位置で、芸能活動が始まった。  最初は、年頃の子供が集まるようなイベントにサクラとして呼ばれたり、先輩アイドルのステージに、バックダンサーとして数曲だけ参加したりと、目立った個人活動などはなかった。 (いつか、デビューして有名になれたら……)  ぼんやりとした将来の夢が具現化したのは、のちの雪野真白である、佐伯真という子役との事件がきっかけだった。そして、その事件は同時に活動を始めたばかりの緋色が芸能界から干されるきっかけでもあった。  それは、緋色がドラマのエキストラ役に抜擢されたときのことだ。ドラマは、事務所の先輩で当時大人気子役だった佐伯真が主演を演じており、同じ事務所である緋色を始めとした数人がクラスメイト役として呼ばれた。  初めてのエキストラ役に緊張しながらも、熱心に演技の説明を受けていると、そこへ主役の佐伯が数人の大人を引き連れて現れた。その顔に表情はなく冷めた目つきをした佐伯はそのままスタスタと歩き、エキストラ役の面々が大きな声で挨拶をしても、足を止めるどころか、目線すら向けようとしない。  挨拶だけは大きな声で、と教えられてきた緋色は、佐伯のその態度にカチンときた。その態度に、気分が悪くなったのは緋色だけのようで、佐伯の態度とは関係なく、撮影は進んでいた。  クラスメートの役だった緋色たちエキストラには台詞はなく、佐伯が教室に入ってくるシーンで背景となって、騒いでいたり談笑したりすればいいという指示だった。カメラは常に真白に向けられていて、自分たちは主役の邪魔すらしなければいい。 (これで、お金もらえるなんてチョロいな)  本番直前になると、現場は、ぴりりとした空気に変わる。監督のカットの声がかかり、緋色たちはごく自然にクラスメイトを演じた。演じたというよりは余計なことをしないように……というのが正しい。 (それにしても、あんな態度のくせに、どんな演技をするんだ?)  テレビはバラエティしか興味のない緋色は、ドラマや映画など見ておらず、当然佐伯真という俳優も名前くらいしか聞いたことがなかった。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

131人が本棚に入れています
本棚に追加