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「ねぇ」
「あ?」
「ぼーっとしてる暇はないんじゃないの?」
「あ、悪い……」
そういえば目的があってここに来ているんだった。
「借りてきた過去の雑誌見せて」
「うん」
ベッドに二人、ぼすんと座り、借りてきた昔のamamを広げる。真白と緋色はそれぞれ雑誌を手にとり、ぺらぺらとめくる。特集の構成はインタビューと主役の男性とモデルの女性の絡みを思わせる写真だった。
インタビュー記事については、ぶっつけで対応するしかないが、せめて撮影は自分がいかにも経験者に見える立ち振る舞いをマスターしなくてはいけなさそうだ。
「まずは、絡み緋色、上半身脱いで」
「え?」
「いいから」
しぶしぶ学ランと着ていたパーカーを脱ぎ捨て、上半身裸になる。真白はその様子をじっと見ていた。
「前から思ってたけど緋色の体は締まっててかっこいいよね」
「お、おう」
「僕は色白だから、鍛えててもなんだか華奢に見えるから、うらやましいな」
「褒めてもなんも出ないぞ」
「ほら、胸筋とかすごいもん」
真白の手が緋色の胸に触れる。その手の温度はひんやりとしているのに、触れられたところは熱くなって、真白に聞こえてしまうんじゃないかって思うほどに、心臓が鳴りやまない。
「僕を女性だと思って抱いてみてよ」
「だ、抱くって」
「雰囲気をどうやって作って、どうやって触る? やってみて」
これは練習なのだ、と言い聞かせて、黙って頷く。
とりあえずすぐ隣にいる真白に手を伸ばして、おそるおそる抱きしめてみると、真白はおとなしく抱かれてくれた。
(キスとか、してもいいんだよな)
もう自分たちはキスを経験している。これは仕事のための準備であり、撮影に備えての練習なのだ、と言い聞かせる。
真白を抱きしめていた腕を緩めて、目の前の小さな唇に自分の唇を重ねた。真白の唇はとても柔らかくしっとりとした感触であのときと同じだった。真白はその瞬間、優しく目を閉じたけれどそのあとはじっと緋色を見つめていた。その目の強さに緋色は引き込まれ、ただその目を見つめるしかできなかった。
(この後、どうしたらいいんだ)
何か次のアクションを起こさなければいけないのに、真白を見つめるだけしかできない自分。思うようにすればいいのに、指一本も動かせない。腕の中の真白を離したくはない。けれどその先に続くものがわからない。
「泣きそうな顔しないでよ」
「ごめん、わかんない。俺、情けないな」
「ちょっと緋色には最初からハードルが高すぎたね」
「え……うわっ」
くるりと器用に裏返されて、緋色は真白に押し倒された。
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