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 どうして嘘の同郷会を でっち上げたんだろう――― と、疑問符を頭一杯に浮かべた成瀬はこれまで参加した飲み会を思い返してみた。歓迎会以後、参加メンバーは半減していき、この前来たのはたったの4人。ということは、このままいくと来週の参加者は2人となり、塔矢とサシで飲む姿を想像して吹き出してしまったが、そこに彼の魂胆が透けて見えた気がして思わず真顔になる。 ――― まさか、こうなりたかった…… とか  いやいや、二人で飲むのに こんな まどろっこしいことをするなんてあり得ない。自分と飲みたきゃ素直に誘えば済むことで わざわざ同郷会でおびき寄せるこたぁないだろうと、自分の妄想の猛々しさに呆れてしまう一方、彼が偽りの同郷会を行ったのは事実で、その理由が分からない成瀬は病棟に戻る道すがら悶々とした。そして、ナースステーションに足を踏み入れた時、部屋の片隅で塔矢が後輩PTに厳しい表情で指導している姿を見て ふと思いあたった。 ――― もしかして、真っ向から誘ったら断られるんじゃないかと心配した?  確かに赴任当初、塔矢からきつく当たられて蕁麻疹が出るほど嫌っていた時期があり、彼の参加する飲み会をことごとくキャンセルしていた。今はもう そんな苦手意識は薄らいだものの、これまで彼と飲んだのは全て同郷会がらみ、それも半ば義務だった。そんな自分を個人的に誘ってもOKをもらえないと危惧した彼がこんな暴挙(それも、すぐにバレる下手な嘘)に出たのだとしたら――― そう考えたら辻褄が合うような気がしてきたけれど、そこまでして自分と飲みたい理由を推察した時、体中の産毛が立つほど気持ちがざわついてしまった。 ――― 『親密になりたい』としか思いつかない  それが本当かどうか確かめたかった成瀬は、恐らく二人だけの同郷会になるであろう来週の飲み会について塔矢に問いただすことはしなかった。多分そこで何らかの動きがあるはずで、だとしても、この憶測に根拠を持たせたかった成瀬はスタッフにリサーチをした。つまり、彼の恋人の有無を尋ね回わった。 「あの人とはそういった話をしない」 「聞いたらドヤされそうなので触れたこともない」 「恐らくいない。あんなキツイ性格についていける女がいたら見てみたい」 「浮いた話はこれまで一度も耳にしたことがない」 「バレンタインの時は『スタッフしかチョコレートをもらわなかった』と嘆いていた」 「成瀬さんが紹介してあげたら」  返ってきた答えは大体こんな感じでよくわからなかったけれど、どれも女性の影がチラリとも見えてこない内容。だけど、最後に聞いた看護師から こんなことを言われてドキリとした。 「二人ともおかしいよ」 「『二人とも』って?」 「前に、池田さんからも同じことを聞かれたから。『成瀬さんには彼女がいるんだろうか?』って。お互い恋人の有無を知りたがるなんて変よね。もしかして両想い? もう付き合っちゃえば」  もちろん、彼女はからかって言ったのだが、同性愛者の成瀬は顔が赤くなり、これまでの憶測が『ほぼ確信』に近づいた瞬間でもあった。
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