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◆◆◆◆◆   そして当日―――  待ち合わせのコンビニ前で一人佇む塔矢を認めた成瀬は、彼がどう出るか興味と不安と若干の期待に胸を膨らませた。  そんな気持ちを露ほども知らない塔矢は こちらに近づいてくると「すみません、今日の飲み会は成瀬さんと俺の二人だけ」と、頭を下げる。『やっぱり……』と、ほくそ笑んだ成瀬はワザと驚いた表情を作ると 「マジですか」 「立て続けにキャンセルされて」 「そりゃあ仕方がない。いつも幹事をしてくださる池田さんは大変だ。計画を立てて店を探してメンバーに呼び掛けても苦労が報われないことがあるんだから」  そう言ってねぎらったあと、ワザと こんなことを言ってみた。 「池田さんって明日仕事でしょ? なら、そこのラーメン屋で ちゃちゃっと済ませて帰りません?」  すると、塔矢が「いやいや」と、慌てた様子で片手を振りながら提案してきた。 「近くに いい店を知ってるんです。良かったらそこへ行きませんか?」 「いい店?」 「ちょっと小洒落たイタリアンレストランで、パスタが旨いんですよ」 『お洒落なイタリアンに行くなんてまるでデートじゃないか!』と驚きを通り越して笑いが込み上げてきた成瀬は、それをかみ殺しながら「じゃあ、そこへ行きましょうか」と、エスコートされるように歩き出したのだった。  歩いて三分ほどの路地裏にレストランは居を構えていた。  赤レンガ造り、ガス燈が灯ったその店は男二人が訪れるにはムードが有り過ぎた。しかも、小窓から覗くと客で賑わっており、成瀬は心配になってきた。 ーーー いきなり来たけど入れるんだろうか?  しかし、それは杞憂に終わった。成瀬を残して店に入った塔矢が出入口から顔を出すと手招きする。どうやら席は空いていたようで、奥まった小さなテーブル席に案内されたのだが、その時成瀬は見逃さなかった。ホールスタッフが【ご予約席】と書かれたプレートを持って立ち去ったのを。そう、塔矢は既に予約をしていたのである。  成瀬が店員の後ろ姿を目で追っていたのに気づいた塔矢が眉間に皺を寄せて謝ってきた。 「参加者が君しかいないと分かった時点で予約したんだ。もしかして、居酒屋のほうが良かった?」  成瀬的にはそこがいい。なぜなら、周りの客は恋人同士か夫婦か女性客ばかりで落ち着かない。 「雰囲気がいいけど、カップルだらけで気が引けるな」 「大丈夫、みんなしゃべることに夢中だから気にしちゃいない」 「池田さんは こういう店にはよく来るの?」 「まあ時々。一人で来る時もあるし後輩を連れてくる時もある」  そして、「恋人とは?」と尋ねた成瀬にこう答えたのだった。 「そっちの方はしばらくご無沙汰なんだ」
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