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王太子妃となったサラは無事出産を終えた。国民たちへの通達は十日後にしようと決まったところだ。産まれたのは男の子、国王も大臣たちも喜んだ。……女の子だったら、何を言われていたか。
夫のカイラスだけは男でも女でも、可愛い我が子に違いないと笑顔で言ってくれていた。それだけが救いだ。王宮の中は想像していた以上に居心地が悪すぎる。派閥争いと古臭い考えが充満し、脳から腐ってしまいそうだ。王族ではあるが遠縁ということもあり、サラに対する評価はまだ低い。芋でも掘ってろ農民、と嘲笑される日々。
そんな中で愛する人が自分に寄りそう考えでいてくれるのは本当に嬉しい。ずっと会いたかった大切な人。一方的に自分の気持ちを押し付けてくるだけだったあの男と大違いだ。
半年前に復活した魔王に殺されたと聞いた。魔王はエルベが即座にトドメをさしたらしいが、あまり興味はない。ああそう、としか思わなかった。エルベとユースティ、この二人を比べると明らかにエルベの方が強いのだから当然の結果だ。戦いのときは常に周囲を警戒して真剣な顔をしていたエルベと違い、あの男はこちらをチラチラ見ながらニヤニヤと笑う。不愉快だったし気持ち悪かった。
「やめよう、あんな奴を思い出すと気分が悪い。もう死んだんだからどうでもいいわ」
うえええ、と泣き始める我が子を抱き上げると、優しく子守唄を歌う。すぐに泣き止んだので、こつんとおでこをくっつけた。目を瞑り祈りの言葉を捧げる。愛する我が子がどうか末永く幸せでありますように、と加護の魔法をかけながらこの上ない幸せを噛み締める。
「産まれてきてくれてありがとう。嬉しいわ」
――ああ、俺もまた会えて嬉しいよサラ。今度は永遠に俺を愛してくれるもんな。
赤ん坊は笑う。ニヤニヤと。
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