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この話は、前作【連星 1】の続きになります。
場面は、塔矢に告白された成瀬が部屋に誘ったところから。
不器用な二人が唯一無二の関係になる数ヶ月を描きます。
◆◆◆◆◆
長く深い夜が白々と明ける頃、成瀬は眠りの縁から戻ってきた。
夢を見ていた。列車とホームの隙間に足が挟まり身動きがとれなくなった夢を。力ずくで引っ張っても駄目。捻ってみても無理。このままではヤバいと悪戦苦闘していたら人が集まり手を貸してくれたけれど埒が明かない。そんななか「なにをグズグズしてるんだ」とか「遅刻するじゃないか」「大事な商談があるのに」と怒声を浴びせられ「すみません!」と声を張り上げたところで目が覚めた。
「ゆめ…… か」と、安堵したのも束の間、自分が蜘蛛の巣に絡まった小虫状態であることに気がついた。上半身は逞しい腕でホールドされ、夢で挟まれていた左足には二本の足が絡まっている。密着した皮膚は熱と湿り気を帯び、特に下半身はベタベタしていて気持ちが悪かった。しかも、そこから独特の匂いが漂っていて……。昨晩の情事を思い出した成瀬は頬が火照るのを感じた。
――― あのあと、シャワーも浴びずに寝入ってしまったんだ
昨日、塔矢から誘われて食事へ行き、次に寄ったバーで告白された。彼の苦悩の表情と不器用な告白、そして振り回してしまった罪悪感と芽生え始めた恋心のせいで帰りのタクシーの中で部屋に誘い、一線を越えた。
まさか、上京して1年足らずで同僚と関係を持つことになるとは思わなかった。失恋の痛手は仕事のスキルアップを図ることで癒すつもりでいて『恋愛はしばらくいい。また傷つきたくはない』と敬遠していたはずなのに、その思いとは裏腹に次の相手と巡り合い、なにも労せず結ばれてしまったのだから……
昨晩―――
塔矢は玄関に入るなり抱きしめてキスをしてきた。
それが5分ほど続いたため、疲れてきた成瀬はそれでも足りないと吸い付いてくる塔矢の胸を押すと「なかへ……」と部屋へ促がした。
前を歩き、リビングの明かりを灯し、鞄を食卓テーブルの椅子に置きながら これから先のことを考える。とりあえずコーヒーでも出そうか? それともシャワーを浴びるよう促す? はたまたベッドへ直行か?――― と、様々なシチュエーションを考えていたら、再び後ろから抱きしめられた。『とにかく、やりたいらしい』そう理解したものの、やはり受身として準備しておきたいことがあった成瀬は塔矢の胸の中で身じろぎしながら訴えた。
「シャワーを浴びてきていい?」
「早く」そう言われて解放されると、いそいそと浴室へ。服を脱ぎながら鏡に映った顔を眺めて呟いた。
「まさか、あの男に抱かれることになるなんて……」
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